第21話

アガサは放課後のある高校に忍び込んでいた。アガサ自身、一応高校生なので同じ制服を来ていれば、基本的には怪しまれない。

もちろん授業が行われている中、入るのは論外だが、放課後に生徒に紛れるくらいなら、十分目的を果たすことができる。


進学校なこともあって、自習で残っている生徒や先生に質問に行く生徒もいる。

怪しいところは特にないのだが、この学校が調査対象に入っていたので何かあるに違いない。

先に他のメンバーと接触して、どういう要領でやれば良いのか聞いてみようと思ったが、それは後回しにした。

なんというか、嘗められる気がしたからだ。

メンバーの中では一番若いのは私だ。もちろん経験も一番少ない。それにつけてあれこれ指示してくる奴らも今までいたのだが、すべて断っていた。

そして、自分の力で数々の依頼をこなしてきたのであった。

この件に関しても、そこだけは譲れなかった。



「暗いく~ん。今日はあそこの1000円ガチャやろうぜ。」

「う、うん。分かったよ。」

気の弱そうな少年が不良に絡まれている。


平凡なシーン。

進学校でもこういうことはあるのね。

少年がかわいそうだとも思えない。反論できない限り、向こうは調子に乗るだけよ。


それが難しいのだが、アガサには理解できなかった。


「ここで会ってしまうんだね。」

不意に後ろから声をかけられた。


「!どうしてあなたがここに?」

先日、アガサの前から不自然に姿を消した男が今こうして目の前にいた。


「どうして?さあね。でも、もうこれは避けられないようだ。」

またもや意味深なことを言って、立ち去って行く。


「ちょっと待ちなさいよ!」

今度は見逃すわけにはいかない。校門の方に歩いていく彼の後ろ姿を追った。


尾行するのではなく、思いきり走っていった。久しぶりに走ったせいか、足腰がギシギシとぎこちなかったが、足がもつれることはなかった。


シュルッ


っ!

突然、足の踏ん張りが効かなくなった。

体のバランスが崩れ、前のめりに倒れてしまう。とっさに手を出し、体を反転させ、衝撃を和らげた。


あいつは…?

顔を上げ、校門の方を見ると、立ち止まりこちらを見ている。その横にもう一人、見知らぬ人がいた。


どこかお嬢様のような雰囲気のある女子だった。目が合うと、こちらを観察するような目つきをし、何やら話している。聞き取れる声量ではなかったが、私に対して敵意を抱いているような気がした。


私が起き上がろうとすると、彼らは踵を返し、去っていった。


まだよ…。まだ追える。

アガサは直感していた。彼らが今回の依頼に関係していると。

さっきの彼の態度からしても、もはやそれは明白だった。


靴紐をキツく結び直し、再び駆け出す。

が、嫌な予感が当たってしまった。


校門を出てすぐに彼らが去った方を見たが、彼らの姿はなかった。


またこれよ…。どういうこと?

明らかに遠くまで行く時間なんてなかった。

隠れる場所もない。


まるで、姿を見えなくしているような。

あるいは瞬間移動か。いずれにしても、そういう超能力じみたことをしなければ、こんな芸当はできない。


つまり、彼らがそうなのか。

能力持ち…。そういう存在が身近にいる可能性があるとは聞いたが、まさか本当にそうだとは。


これが事実だとして、一体どう対処すればよいというのだ。


無力感に襲われたが、必死に思考を取り戻そうとした。ここで引いてしまえば、私は負けたことになる。

私はアガサよ。

私だって、常人よりはるかにハードなことをこなしてきたんだから。


歯を食いしばり、気合いを入れた。


やってやるわよ。




この時、彼女は大事なことを見落としていたが、気づく余地もなかった。



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