第19話

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夜の港は静まり返っていて、波が緩やかに打ち寄せる音だけがしていた。

そんな中、お互い微動だにしない二つの影があった。


「もう1度聞く。俺たち側に加わる気はないのか?」

「ああ、そうだね。」

「なぜだ?」 真珠の耳飾りを付けた男が問いかけた。

異様に鋭い視線が目の前にいるものを刺すが、黒いフードの男はピクリともしない。


「逆になぜ、君たちに協力する必要があるんだ?」

「いろいろと都合がいいからだ。それに、お前はそれでいいのか?」

「どういうことかな?」

「その力を手にして、世界がどれだけ脆く、崩れやすいのか悟ったのだろう?だったらなぜそれをしない?」

「できることはしなくてはならないと言うのかい?」

「使命とまでは言わない。だが、やるべきなんだ。そう願う人のために。」

「世界の混沌を望むものがいると?」

「ああいる。こうしてお前の目の前にもな。」

黒フードの男はやや視線を上げた。


「僕なんかより君のほうができそうだと思うけどね。」

「どうだかな。」

「完全に否定はしないよ。考えておく。」

黒フードはそう言うと、背を向け歩いて行った。

その姿はすぐ暗闇と同化して見えなくなった。



「もしもーし。どうだったー?八雲?」

「交渉決裂ってとこだな。だが敵にもならない。」

「そう。じゃあ奴のことは一旦無視ってことで?」

「いいや。」 口の端が吊り上がる。

「次会ったら攻撃して構わない。一切の躊躇をするな。」

「ぷふっ。さすが八雲!大胆不敵だね。」

「潜伏者たちにも伝えろ。」

「おっけー。例のQuestersとやらも動き始めたようだけど、そっちはどうする?」


「決まっている。邪魔するものはみな、だ。」

「最高だよ、八雲は。」

「後で落ち合おう、エディ。」



真珠の首飾りの男__八雲 の姿もまた、暗闇に消えていった。




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「うちのボスはやる気満々みたいだから、各自、始めちゃっていいよ。」

白髪に青い眼をした青年がモニターに映し出されている。

彼の名はエディ。ハーフであり、外国人的な顔立ちをしているので白髪でもあまり違和感がない。そして、彼は八雲の側近であり、かなり頭が切れるそうだ。


「了解」とだけ返し、モニターの電源を切った。


さて黒フードのほうは、触らぬ神に祟りなしだ。情報を見る限り、俺の手に負える相手じゃない。

俺の任務はQuestersの対処だ。

単純でいい。

他のメンバーは、いろいろと世界を落とすための工作をしているようだが、俺には性に合わない。というか、そんな難しいことは俺にはできない。

俺にできることはただ一つ、邪魔者を排除するだけだ。



彼は連絡を終えると、地下室に向かった。そこにはダンベルやバーベル、ランニングマシーンなどあらゆるトレーニング機材がそろっていた。

そして夜が明けるまで体を鍛え続けた。


限界まで負荷がかかった彼の体は、ところどころ内出血が起こり、筋線維がプチプチと音を立てている。肌も青白く、酸欠に陥っているようだ。


が、次の瞬間彼の体はみるみる色を取り戻していった。腫れた筋肉はもとの形に戻っていき、内出血も消えていった。


「ふぅ~。仕上がったな。」

彼の体はすっかりトレーニング前の状態に戻っていた。


これは彼の能力、{負荷逆転}《ロードリバース》であった。

体にかかった負荷をエネルギーとして貯蓄し、好きなタイミングで自在に引き出せるというものだ。その際、体の傷も一緒に負荷としてエネルギーに変換される。


彼はもとから筋トレをしていたが、いつも割に合わないと思っていた。というのは、筋トレにかけた時間、苦痛の割に、つく筋肉の量、パワーが少なすぎるということだ。彼はとにかく強くなりたかったのだ。それこそ漫画に出てくる大怪獣のように街を破壊できるくらいに。

そして気づけばこの能力を手にしていた。


今では常に筋トレでかかった負荷を貯め込み、いつ何時でも絶大なパワーを発揮できるようにしている。


シャワーを浴び、動きやすい服装を身に着け、地下室を後にした。


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