第12話

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大型トラックを走らせながら街並みを眺めた。

そこは都会とも田舎ともいえない微妙なところだった。人気な店もあれば、店の存在自体忘れられているかのようなところもある。

狭い道を、車体を擦らせないように進むのはストレスがたまることだが、彼__刈谷将司(かりや まさし)はスピードを落とすことなく進んだ。

手馴れたハンドルさばきですいすい進む。


彼の仕事は運送であった。荷物がなんであれ、運び先が日本内、車で行くことのできる場所であればどこでも、というものであった。 驚くことに彼はこの仕事を個人でやっていた。1日中トラックに乗っているため、もはや体の一部としてトラックを扱える。効率が悪く、配達にかかる時間がその時によるので注文はそれほど多くなかった。しかし、常に一定数の客はいた。いわゆる裏の輩というものたちだ。普通の運送会社に任せるわけにはいかない怪しい品も彼は引き受けるためであった。


ガソリンスタンドにより、少し休憩した。超長時間労働にも関わらず、彼の気分は良かった。慣れているというよりは苦にしていないという様子である。


「いや~お兄さん。最近トラック事故が多くてね。睡眠はしっかりとらなきゃいかんよ~」

「お気遣いなく。」

苦笑い気味に返事をした。


睡眠か。どんな感じなんだろうな。寝るって。気絶はしたことあるけど、それがずっと続く感じか?


彼は眠ったことがなかった。

そう、彼もまた異常なのである。しかし、彼はそれを特に気にしていない。もともとそういう性格なのか、この異常に適応するためにそういう性格になったのか、彼は分からないことは一切考えず、そのまま放置する事ができるのだ。



人通りのない方に進んでいく。

古びたビルが並ぶ区域に入った。辺りは静かで少し不気味であった。

仕事柄、こういう場所には慣れているので、構わず進んでいく。


配達先を確認するため、一旦トラックを止めた。配達物の確認を済ませ、再びトラックを進ませた時、


うん?人…か?薄暗い中を揺れ動く影があった。


タッタッタッ

少年がこちらに全力で走ってきている。額には大粒の汗が浮かんでいる。その背後に物騒な男が迫ってきていた。こちらは息が切れていない。

もめ事か…?


構わずトラックを進めた。ちょうど少年とすれ違う瞬間、


ガッ


今、なんか荷台にぶつかったような。

ミラーで後ろを確認すると、さっきの少年が荷台にしがみついていた。


おいおい…。人の配達は俺の仕事じゃねぇぞ。もめ事に巻き込まれるのはごめんだからな。だが、ここで止まるのもまずい気がする。少年にとっても、俺にとっても。

とりあえず追っ手から少年を逃がしてやるか。


アクセルを踏み込んだ。

後ろから追ってくる様子はない。さすがに車両にはついてこれるはずはないが、彼は用心を怠らなかった。


そういうやつもいる…。車以上のスピードで走るやつも確かにいる。理屈は分からないが、常人離れしたことをする奴は仕事中、何度か見たことがあった。



この辺でいいか。

車通りが少ないところに出た。

勢いをつけたまま曲がり角を直角に曲がった。荷台につかまっていた少年はたまらず投げ出される。地面を転がっていく痛々しい音が聞こえた。

悪いな。

手を貸せるのはここまでだ。

何があったか分からんが、後はお前次第だ。



彼は次の配達先に向かって、どこまでもトラックを走らせていく。

暗闇の中、エンジン音だけが辺りに響き渡った。


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