第11話
「ねえハヤカワさん。なに飲む?」
「私はいいわ。ダイエット中だし。」
「えー。そんなに細いのに~」
「ハヤカワさんはお前と違ってデリケートなんだよ。」
隣の男子が笑い声をあげる。
つまらない人たちね。さっきから中身のない会話ばっかで、わいわいしてるだけ。
私を誘ったのもなんとなく、面白そうだから。少し毛色の違う人を誘ってみたかった。それだけのことよ。
「次ハヤカワさんの番よ。」
「出るか、3連ストライク!」
少し驚かしてあげようかしら。
あえてガーターぎりぎりのところに転がした。
そのままガーターになるかと思われた球は急に軌道を変え、中央のピンにヒットした。
ストライク!
という文字が頭上の画面に表示された。
「すご!なに今の?」
「カーブよ。」
「へぇ~。カーブってそんなに曲がるんだ。」
「曲がるというか、急に何かに当たったみたいに方向転換したよな!」
「そういうふうに回転をかけただけよ。」
「すげぇ。」
なんてことはない。
球に’当てた’だけのこと。カーブなんてできない。
目に見えない何かを飛ばし、球に当てて軌道を変えたのであった。それが何かは彼女にも分からない。空気なのか、透明な物体を生成して飛ばすのか定かではない。
彼女はそれを手に集中させ、飛ばすことができるということしか分からなかった。シンプルに、彼女はこの能力を”シューター”と呼んでいた。
ばかばかしい。こんなことに能力を使うなんてあいつと大して変わらないじゃない。
もっとこう…使命みたいのがあるはずなのよ。じゃなきゃ何のためにこんな能力が目覚めたって言うのよ。それこそ世界の危機に立ち向かうためにこの能力は与えられたのだ、とか。そういう使命が欲しいのよ。達成できなくてもきっと後悔しないわ。本気でできる何かが、私には必要なのよ。
横のレーンでは老人たちが楽しくやっている。腰を痛めないようにゆっくりとした動作で球を投げる。ガーターになってしまうのにも関わらず、あ~と言って喜んでいる。
平凡な人生ね。
私だってこのままだとその平凡な人生を送ることになる。悪いとは言わないけど、それじゃ宝の持ち腐れじゃない。私にしかないこの能力を何かに活用できれば…。やっぱりあいつの探偵ごっこに付き合うしかないのかしら。
ふと視線を遠くにやると、一人の少年が目に入った。
一人でボウリングなんてかわいそうな人ね。随分熱中しているけど。
…
なぜかその少年に自分と同じものを感じた。それが何かは確かではないが、彼女の直感はよく当たるのであった。ちょうど数年前、あいつと出会ったときと同じような直感がした。お互い何も知らない他人だったが、共通することが一つあった。能力を持っていることだ。
つまり今、あの少年もそうであるかもしれない。
試してみようかしら。
指先に意識を集中させ、それを彼の指先めがけて打ち出した。一瞬の動作であったが、照準は完璧に合っていて見事に彼の親指に命中した。
威力は弱く調整していたため、彼の反応はほとんどなかった。しかし、何もしてないのに急に爪が割れたら、能力持ちであれば勘づくはずだ。もしかしたら今のは…とね。
そのあとの行動を彼女は観察していた。
少し考えたような素振りをした後、彼は踵を返し、外に出て行った。
怪しいわね。今まで馬鹿みたいにボウリングに熱中していたのに、あっさり帰ってしまった。私という能力持ちの存在に勘付いて、身を引いた可能性がある。
だとしたら冷静な判断力を持っている。
あいつに知らせておいたほうがよさそうね。
「どうしたの?ハヤカワさん。そんな怖い顔をして。」
「何でもないわ。次、私の番ね。」
あれ以降、ストライクは出さないようにした。ボウリングが上手いなんて噂が立てば、また別のグループに誘われる可能性がある。
それに他の人たちと遊んでばっかしてると、あいつが嫉妬しちゃうしね。
外に出ると空はすっかり暗くなっていた。
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