第8話

何回か電車を乗り換え、適当なところで降りた。そこは都会と田舎の中間くらいの場所であった。特に名所もなく、わざわざ遠くから来るようなところでもなかったが、またそれも一興ということで、そのままぶらぶらした。


昔は栄えてたって感じかな?古びたビルがそこそこ並んでいた。今では整備されてなく、所有権が放棄されたように見える。

その中で一つだけ人が出入りしている建物があった。年代がバラバラだが、どの人も活力がないというか、妙に暗い人たちだった。


そこを通りすぎると、ボウリング場があった。大きなピンに「スポッタ」と書かれた看板がある。年配のかたに人気なようで、レーンの半分が老人クラブとやらに占められていた。

隅っこの方で学生たちがワイワイやっていた。なんとなく一人でその横でやるのは気まずいので、反対側の隅っこでやることにした。


「久しぶりだなぁ。あのときはガーターばっかで全然楽しくなかったけど。あっ」

また声に出てしまっていた。幸い、ボウリングの音が響き渡っているので、呟く程度なら、問題なかった。

外で独り言をすると変人扱いされてしまうため、注意が必要だ。


ふっ。彼の投げたボールは見事にカーブを描き、少し角度をつけた状態で真ん中に当たった。


ストライク!


頭上にある画面に変なキャラクターとともに、ストライクの文字が表示された。


いいねぇ。



時間を忘れて没頭していると、突然親指にかすかな痛みが走った。

痛て。指から少し血が出ていた。

爪が欠けたのか。投げ方が下手だったかな?

時間を見ると、始めてから2時間経っていた。

そろそろ飽きてきたし、出るか。


外は少し暗く、夕陽が空を赤くしていた。


どうするか。今日のところは漫画喫茶にでも泊まるか。確か向こうにあったはず。

来た道を戻る方向に歩いた。

また古いビルが並ぶところを通ることになった。ひっそりとしており、足音が妙にハッキリと聞こえる。

暗くなってくると不気味だなぁ。急に何か飛び出してきそうだ。


予感は的中してほしくない時に限って的中する。


「うお!?」

「え、」急のことで頭が回らないまま、突き飛ばされた。

向こうも予想外のようで、驚いた顔をしている。しかし、転がったのはこっちだけで、向こうは少しよろけただけだった。


「す、すいま…」

「チッ!今日はとことんついてないな。」


その男は顔をしかめながら独り言のように呟いた。

そしてこちらに目を向けた。怒っているような、めんどくさがってるような顔だった。


「何ですか…?」

「いや、見られたからにはってやつだ。」

男は言い終わると、駆け出した。


うっ。反射的に逃げた。何がなんだか分からないが全力で走った。

「待て待て。別に殺そうってわけじゃねぇ。」

つまり殺す手前まではしてくる可能性がある。捕まったら危険だ。

男は息一つ乱れることなく、距離をつめてくる。


くっ!追い付かれる!

男の足音はすぐ後ろまで迫っていた。

その時、一台のトラックが向こうから道路を走ってきた。トラックは動き出した直後であまりスピードは出てなかった。



やるしかない!近づくにつれて勢いが増してくるトラックに、半分ぶつかるようなかたちでしがみついた。


「嘘だろ!? 」

トラックのスピードは更に増したので、男はどうしようもなかった。



ミシミシ… 腕の骨がきしむ。トラックは荷台に人がしがみついているのに気づいておらず、なかなか止まらなかった。


きつい…。体勢が不安定で、ほとんど腕だけで体をささえている。掴む力もなくなってきた。それに呼吸がしづらい。つかまる時に胸を打ったのか。トラックが次に止まるまでしがみつき続ける自信がない。


トラックが急に曲がった。遠心力に振り回され、投げ出された。


ズザザサザ

勢いそのままに地面に投げ出され、摩擦ともに転がっていく。




――――――――――――――――――――――――



「…はあ、はあ。とんだ災難だった…。まさかこんなことになるなんて…痛…。は、眠い。早く寝るところ探さないと…」


彼の通った後には血溜りができていた。


「寒い…。うっ…」

限界が来た。崩れ落ちるようにその場に座った。


「はぁ…眠い。今日はいい夢が見れそうだな…」


途切れゆく意識の中、彼は能力を発動した。


とびっきりに楽しい夢を見よう…

非現実的で天地がひっくり返るような…

人々はみな…


空に落ちて…


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