第6話

「宇江城と宮本は欠席だ。宮本は家庭の事情でしばらく別の町に行くそうだ。宇江城なんだが、その……行方不明だそうだ。」


クラスにどよめきが起きた。

ジョウが行方不明?


「誘拐とかではなく、家出だそうだ。詳しいことはまだ分かっていないが、宇江城を見つけたら、すぐに知らせるように。それと、ここの事務をしている青竹さんが飲酒運転で事故を……」


朝のHRが終わると、クラス一斉にしゃべりだした。もちろん話題は

「宇江城が家出?」

「あいつ、そんなに追い込まれていたのか?」

「勉強漬けの毎日に嫌気がさしたとか?」

「宇江城君、何考えているか分かんないからなぁ。いろいろためこんでたんじゃねぇの?」


信じられなかった。昨日まで普通に話していたのに。

ジョウは要領がよかったから、勉強を苦にしているようにも見えなかった。

それよりも、ジョウが’追い込まれて’なんて想像できない。

別にジョウは、スポーツ万能で勉強ができるなんてことはないが、なんていうか余裕があった。学校なんかは二の次で、他の何かを目指していたかのようだった。


とにかくジョウが家出なんて信じられなかった。本当に家出したというなら、もうほっといてもいいのではないか。おそらく生活の見通しがすでにできんているんだろう。


昨日のセミナーのことがあってか、’家出’という言葉に特に異常性は感じなかった。


午前の授業はみんななんだかソワソワしていて落ち着きがなかった。

クラスメイトの家出という事態に少しワクワクしているようにも見えた。


人はやはり’普通’ではない出来事に心惹かれるものなのかもなぁ。

そんなことを考えながら、午前は終わった。


午後になるともはや家出のことなんて忘れたかのようにみんな落ち着いていた。

こんなものなんだろう。自分とは全く関係ないものに対して、興味は続かない。たとえそれがクラスメイトの異常事態だとしても。


俺はというと、落ちついてはいた。しかし、授業の内容などまったく耳に入らなかった。ジョウは大事な友達だ。考えられないが、ジョウがなにか悩んでいるなら相談に乗るくらいはできる。



今日の授業が終わると、すぐにジョウの家に向かった。学校からそれほど遠くないのですぐに家が見えてきた。

家の前に数人の生徒がいた。


「おお、岩木。おまえも来たんだ。」

「お、おう。それより、どうだった?」

先に来ていた彼らに質問すると

「それが…誰もいないみたいなんだ。」

「ジョウの母さんも探しに行ったとか?」

「いや、そうじゃない。家の中が空なんだ。人だけじゃなくて、ものまですっからかん。」


見たほうが早いと促され、家の中を見てみる。

そこは文字通り、何もなかった。生活感が一切ない。ちょっと前まで宇江城家が住んでいたはずなのに。


「ジョウの母さんは?どこに行ったんだろう?」

「職員室の前でちょろっと聞いたんだけど、母も行方不明らしいよ。」


どういうことなんだ?ジョウが家出をしてしまったという話ではないのか?


「岩ちゃんは宇江城君が行きそうなところとか心当たりない?」

「う~ん。特にない。今思うと、ジョウが普段学校外で何してるのか全然わからん。」

「岩ちゃんでそれなら、俺らには見当がつかないね。」

ジョウを探すのはあきらめたのか、彼らは帰って行った。


ジョウが行きそうなところか…。

彼には少し心当たりがあった。行きそうなところ、ではなく。

ジョウ自身がいたところ、昨日のセミナー、黒いフード…。

思考といえるほどまとまったものではないが、彼の頭に昨日の出来事が断片的に浮かんできた。


ありえねー。


きっと家族そろって家出ごっこでもしているんだろう。突拍子もない考えだったが、先ほど浮かんだそれよりは、現実味があると思った。

ジョウのことだし。大丈夫さ。俺が心配する必要はない。


彼はそのまま家に帰った。


これ以上踏み込むのは危険だと、心の奥底、彼も気が付かないところで悟っていたのかもしれない。


ねじれかけた彼の運命はここで期せずして、安定を取り戻すのであった。




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