第5話


インヴィジブルによって、彼の姿はそこにいる誰にも視えない。

男たちは訳も分からないまま次々と倒されていった。

「ど、どうなってやがる!?」

「落ち着け!姿が見えないだけだ。おそらくこいつも…ウッ」

「ま、待て!あいつの手先なのか?じ、情報はくれてやる。俺は見逃してくれ!たの…」

言い終わる間もなく、彼の意識は途絶えた。



ふう。俺もこういうことには手馴れてきたものだ。

まだかなり残ってるはずだ。ひとまずここにいる人たちが出ていくのを見送るか。

にしてもさっき、手先とか物騒なこと言ってたな。

何のことだろう?裏で何か組織でも絡んでいるのだろうか。だとしたら、俺は今とんでもないことに首を突っ込んでいるのでは?

怖くはない。いざとなったら俺の能力で逃げることなんて簡単だ。だが、不安ではある。今までこれに似たことはたくさんやってきたが、今回は何か違うような、得体の知れなさがあった。


そういえば、岩木君がいない…。そこのドアに「ファイナンシャルアカデミー」と書かれている。

彼もこれに参加したのではなかったのか?

上の階から足音が聞こえた。

上に逃げたのか!?まずい。屋上に追い込まれるのが落ちだ。

急いで階段を駆け上った。


!?

誰だ…?本能的に息を殺した。

屋上に向かう途中の階段で黒いフードの、おそらく男とすれ違った。

その足取りは悠然としていて、この状況には不釣り合いだった。

何者だ…?顔は全く見えなかった。



…いや、今は岩木君を探すのが先だ。

再び階段を駆け上がろうとすぐが、


「はあ、はあ。お、おい待ってくれ。あんた何者なんだ?」

岩木君の声だ。息を切らしながら、降りてくる。

さっきの黒フードを追ってるのか。

もういないと分かったのか、急に足取りがゆっくりとなる。俺の横を通り過ぎて行った。

無事そうだった。それが逆に変に思われる。間違いなく追っ手は上までいったはずだった。

インヴィジブルを継続したまま、探索してみる。


これは…。

地震でも起きたかのような荒れ方だった。

床が抜けていたり、机が転がっていたり、争ったというには不自然だ。


人が倒れているが、おそらく向こう側なので助ける必要はないだろう。

やられたというよりかは、足を踏み外して自滅したかのようだった。何があったんだろうか。この人を起こして問いただしても、分かりそうになかった。



ここに長居してもいいことはないだろう。それに、なにか裏がありそうだ。

帰ろう。

岩木君も無事だったし、俺の目的も…、いや、宇江城君についてはまだ何もわかっていないか。


日が沈んできた。

駅のトイレに入り、能力を解除した。念には念を。

ハンカチで手を拭きながら、外に出た。誰が見てもトイレで用を足してきた若者にしか見えない。

ばれたらどうなるか。そんなことは知らないが、どうせろくなことにならない。

ばれないに越したことはない。

彼の能力のことを知っている人はいるが、その人もまた能力持ちなのである。特に交流はないが連絡先は交換してある。


帰りの電車の中、ふとあの謎の黒フードのことが頭に浮かんだ。

どういう能力なんだ?能力があることは確信していた。

ただ、それがどういうものなのか見当がつかない。

岩木君を助けたとみるのが自然か。ということは岩木君のことを知っている可能性が高い。


…。まさかな。宇江城君…。いや、それはないはず…だ。

彼が目覚めたと考えられるのは早くても一昨日だ。能力に目覚めた途端、人格まで変わることなんてあるのだろうか?


帰り道の間、ずっとその考えが頭から離れなかった。

そしてそれは確信に変わりつつあった。


大変なことになりそうだ。



親に連絡を入れると、家とは反対方向に駆け出した。

まだ間に合うかもしれない…!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る