第4話

「今日、宇江城は欠席だ。」


欠席。それは普通の生徒からしたら何でもないことだ。普段欠席しないような人がすれば、珍しいなと思われる程度である。

それは彼__ 宮本からしても同じであった。

欠席した人が普通であれば。


彼に何らかの兆しが表れたのであろうか?

単に体調を崩しただけと言われれば、そうかとしか言いようがないが、そうでないように思われる。

彼には何かある。それが宇江城君を見た第一印象であり、確実なものだった。

あの視線からそれは容易に読み取れた。彼の目には人智を超えたものが見えている。

それが何かまでは俺の能力じゃ分からないが。


そう、彼もまた’普通’ではなかった。


彼の能力”見えざる者”《インヴィジブル》は対象から自分の姿を完全に見えなくするというもので、効果範囲は’本来自分を視認できる位置にいるもの’である。

その能力の副産物かは不明だが、彼には人の視線からその人の内にあるものが読み取れる。ただし、それを解釈できるかは彼次第。


「宇江城くんが欠席なんて珍しいね。岩木くんは何か知ってる?」

「いや、知らない。風邪でも引いたんじゃない?」

「そう。そうか…」

違う。

岩木君の視線からも疑惑の念が感じられた。おそらく彼も風邪で欠席したのではないと思っているようだ。


この予感…。得体の知れない何かが目覚めたかのような。そしてそれが強大な力を持ち、世界に牙をむくのではないか。

そんな気がしてならなかった。

調べるか。


とは言ったものの、どうしようか。宇江城君の家は知っているが、いるとも思えない。風邪じゃないと決まったわけではないが、直観に頼って行動してみるのもたまにはいいだろう。


掃除の時間になると、こそこそと動いている人影が目にとまった。


うん?あれは岩木君だ。

周りをちらちら見ながら校門のほうに向かっている。

周りに悟られないように何気なく装っているが、バレバレである。

学校に入ってくる人の間を見計らって外に出て行った。


彼も何か感じ取ったのか…?まさか俺と同じで能力持ちであることを隠していたのか?あるいは能力があることに自分でも気づいてないのか。

いずれにしても、宇江城君についてなにか勘付いたのであれば、能力持ちである可能性が高い。

尾行することに決めた。


岩木を追い、着いた先は古びたビルであった。彼はそのまま中に入っていく。


こんなところに何の用が?

もう少し時間をおいて様子を見るか。

能力を使えば気づかれずに隣にいることだってできるが、極力能力は使わないようにしている。


彼が入ってしばらく経つが、出てくる気配はない。

建物の周りを歩いていると、ある貼り紙が目に入った。

貼り紙によると、この建物は建てつけが悪く、造られてからかなりの年月が経っているのもあって不安定な状態だそうだ。

ますます何の用があってここに来たのか謎が深まるばかりであった。


入ってみるしかない。


エレベーターは使えないようだ。階段で上るしかないが、何階で何が行われていのだろうか。

階段で上へ行こうとしたその時、

足音…?それもかなり多くの。急に歩き出したのか?

まるで今まで潜んでいたかのようだ。


出し惜しみは危険か。異常な事態に備え、インヴィジブルを発動した。

たちまち、彼は誰からも視認されなくなる。対象は選択できるが、この場合、対象は全てのほうがいいだろう。


急に足音が荒くなった。

直後、悲鳴が聞こえた。

もはや異常事態が起きていることは明白だった。

階段を駆け上ると、まさに襲われているところだった。

音に反応して何人かがこちらを向くが、彼らには何も見えていなかった。


やはり便利だな、俺の能力は。

そのまま急所に蹴りを入れてやった。





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