相手に“おめでとう”を伝える、たった15個の冴えたやり方

南乃 展示

この先、会話劇があるぞ!

「俺、最近気になる人がいてさ」


「ほほう」


「その人がもうすぐ誕生日なんだ」


「うっほっほ」


「そのゴリラみたいな相槌やめない?」


「オーケー、把握した。つまり君はその相手に、誕生日にかこつけて夜道で襲いかかり『サプライズ・プレゼントは僕さぁ!』などと妄言を吐きながらコート一枚の下の貧相なイチモツを外気に晒し出そうと、そういうわけだね?」


「いきなり人語で電波垂れ流しだすのもやめない?」


「ふぅ……さすがにそれは捕まるよ? やめておいた方がいい」


「なんで諭すような口調になってんの?」


「残念ながらボクは……そのアイデアを実行しようとする君を止めなければならない。必ず止めてみせる。この命に代えても、せめてパンツだけは履かせてみせる」


「なんか覚悟決めてるところ悪いけど、眼の前でそんな脱ごうとしなくてもお前のパンツは履かないからな?」


「そっか」


「うん、もう相談する相手を間違えた気がする」


「オーケー、席を立つのは待ちなさい。つまり君はその相手にプレゼントなりなんなりを渡して誕生日を祝いつつ、自分の好感度を手軽に高めたいわけだね?」


「だいぶバッサリ言うねお前。というか分かってたなら夜道のくだり要らなかったよな?」


「下心を詰め込んだプレゼントで……相手の物欲を満たし……」


「なんでいきなり敵愾心てきがいしんむき出しにして睨んでくんの?」


「よし任せてくれ、ボクが最高の誕生祝いを演出してあげよう」


「今のところ1フェムトグラムも任せられる要素がないけど、とりあえず聞いてみることにする」


「安心して、ボクのアイデアはざっと思いつくだけでもあと14個もあるんだからね」


「夜道のあれもその1つに入ってたって時点で安心はできないかな」


「オーソドックスなところではそうだね、2人きりのディナーに誘うとかどうかな」


「意外とまともだった……でも結構ハードル高いだろ、それ」


「100万ドルの夜景が見えるホテルで食事をしつつ、おもむろにプレゼントの100万ドルをポンと渡す……その2つの乗算で威力はもう10000万ドルパワーさ」


「バカのする計算みたいになってない?」


「まあ甲斐性なしの君が100万ドルを持ってるわけないし、このアイデアはムリだね。ぺっ」


「だいたいの人は持ってないだろうし、ツバは吐くな」


「ごめんなさい」


「わかればよろしい」


「でもそうなると他の、“宇宙空間に出てから相手にお祝いの衛星通信を送る”、“砲弾の降る戦火の中をかいくぐって相手にプレゼントを届ける”、“核で世界が滅んだあと、貴重な水を相手に恵む”、あたりも……財力的に厳しいかな?」


「たぶん財力以外にも厳しいと思う」


「残念だよ」


「俺も残念だよ」


「アイデアもあと残り10個だし、ふーむ……」


「もっとシンプルなのでいいよ、シンプルなので」


「シンプル……たとえば当日の朝、出会い頭に贈り物を渡して驚かせるとか」


「やっと普通っぽいのがきたぞ」


「朝の時間、遅刻しまいと焦る彼女と、プレゼントを持った君が曲がり角で偶然鉢合わせ、ぶつかってしまい……ドンッ、グサッと」


「なんか刺さらなかったか今」


「このアイデアも君には難しいね。あのねえ、やっぱり牛刀はプレゼントには適していなかったんだよ、君」


「なんで俺、包丁贈って傷害事件起こす前提で諭されてるの?」


「そうなるともう、“直線道路で後ろから走り寄ってプレゼント”、“信号待ちの相手に唐突に横からプレゼント”、“歩道橋から下に飛び降りつつプレゼント”、“ダンボールに隠れつつ、隙を見て立ち上がり相手にプレゼント”も難しいね」


「それたぶんプレゼントじゃないし、後半はもう暗殺系アクションゲームみたいになってない?」


「君はサプライズにはとことん不向きなんだなぁ」


「うんもういいやそれで、サプライズ的な要素のない他のアイデアを出してくれ」


「じゃあ正攻法で、相手を呼び出してプレゼント作戦だ」


「お、おお……相変わらずハードルは高そうだけど、効果も高そうだ。いいねそれ」


「そうだろうそうだろう、もっと褒めてくれてもいいんだよ」


「ちなみに渡すのは凶器以外な」


「…………………………もちろんそうだよ?」


「沈黙長すぎない?」


「そこまで言うならプレゼントは置いておこう。問題は渡し方だね。例えば夕暮れの川原かわら……そこで君と彼女は向き合っているわけだ。さて、この後の動き方は数パターンが考えられる」


「よし、それを教えてくれ」


「まずは右ステップ。これが基本だ」


「なんの基本だ」


「もう一つは……そう正解だよ、もちろん左ステップだね」


「俺いまなんも喋ってなかったんだけど」


「他にも前と後ろにステップを踏むパターンもあるし、上級者は前後左右を技巧的に組み合わせるけど……君はぶきっちょだからね、まずは相手を中心に右ステップを繰り出し続けることをイメージするんだ」


「なんでその俺、必死に相手の背後を取ろうとしてるの?」


「ちなみに何を隠そう、ボクはステップが苦手なんだ。ダンスとか走ったりする時もすぐに転んじゃうからね」


「お前もぶきっちょだもんな」


「困ったね、もうアイデアが最後のやつだけになってしまった」


「15個があっという間に残り1つになったな」


「最後のは……まあうん、もう普通に“おめでとう”って言えばいいんじゃない?」


「投げやり」


「凝ったプレゼント送らなくても、そう言葉をかけられただけでも相手は嬉しいものだよ、うん」


「そうか?」


「それだけでも自分のことを相手が気にかけてる、意識してるってことが充分に伝わるからね」


「そうなのか」


「ということでボクからのアドバイスは以上だ。とっとと行ってこいこのウンコやろう」


「いきなり物凄い罵倒されたけど、まぁその、なんだ」


「ん? どうしたの?」


「おめでとう」


「……んん?」


「お前自分の誕生日も忘れてただろ。結局なんにも用意しないままだけど、それだけは今のうちにな。伝えとかないと」


「あ、あー……」


「明日なんか買いに行こう。選んでもらった方が楽だし」


「…………」


「どうした黙って」


「やっぱりパンツいる?」


「いらんいらん」


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