無数の武器
気合いの入ったザックスとケビンを見送った後、ギルガが俺に疑問を口にした。
「ザックスとケビン……だっけか? あの二人どっちが強いんだ?」
「正直、わからない」
「実力が拮抗してんのか?」
「違う。ザックスはともかく、ケビンが未知数なんだ。俺達と出会ったのは一昨日の夜だし」
「一昨日? 嘘だろ? あいつらどう見ても出会って二日や三日の仲じゃねえぞ」
「ケビンはまだ知らないが、ザックスはそういう奴なんだよ。出会って間もない奴と一瞬で打ち解けていつの間にか仲良くなっているんだ」
俺がこの世界に来てすぐの宿無し無一文だった時もそうだ。出会って間もない余所者の俺をザックスは“友達”と呼んで家に泊めてくれた。それからコトーゼ武器屋に居候することになってからも、あいつは家族同然のように絡んでくれたな。
前の世界での家族や友人と二度と会えなくなってしまった俺が、その悲しみから立ち直れたのはあいつと出会ったからなのかもしれない。
ふと、前の世界の友人達のことを思い出してしまった。あいつらとも色々下らないことをしてたっけ。カラオケでふざけた曲をデュエットで歌いあったり、男ばかりで集まってサプライズ誕生日パーティを開いたこともあったな。
駄目だ。過去を振り返るな。もうあの日々は戻ってこないのだ。今の繋がりを大切にせねば。
「おいユーガ? どうした?」
「いや何でもない……お、出てきたぞ。ザックスとケビンだ」
入場口から二人が姿を現した。ザックスは大きな両手剣、ケビンは槍を携えている。
「お、今回は両手剣か。しかも一昨日買った新品じゃないか」
「あれ? さっきまでのあいつ、あんなでけえ武器持ってたか?」
ギルガが疑問に思うのも無理はない。ケビンは元々、背中に槍を背負っているので何も問題ないが、ザックスは控え室へと向かった時には一切武器を持っていなかった。何も知らないギルガからしてみれば、不自然に思うだろう。
「まあ、試合を見てりゃ多分わかる」
俺は意味ありげにそう答えた。
「それでは、ザックス・コトーゼ対ケビン・クリートの試合を開始する。始め!」
審判の合図と共に二人は距離を詰めた。
まず、ケビンがザックスに向けて槍を突き出す。
「おっと! あぶねえな!」
ザックスはそれを避ける。そのまま反撃として両手剣を思いっきりケビンに向けて振り回した。
「そっちこそ危ないな!」
ケビンもこれをしゃがんで避ける。お互いまだダメージは受けていない。二人はそのままお互いの武器を激しく交差させる。
しかし、槍使いのケビンにとって、距離を詰められたこの状況は戦いにくいだろう。ケビン本人もそれは理解していたようだ。
「距離が近いな……離れてもらうよ!」
ケビンの台詞と共に、ケビンの手にしている槍に空気の渦が纏い始めた。そして、それを足元の地面に突き刺した。
「“ハリケーンブラスト”!」
「おわっ!?」
突き刺すと同時に小さな竜巻が発生し、ザックスを吹き飛ばす。技を繰り出したケビン本人はびくともしない。
「いてて……ケビンの奴、武器に魔法を付与させやがったな。そんなこと出来るのはリオーネくらいだと思っていたぜ……!」
吹き飛ばされたザックスは体勢を立て直す。
そのまま、再び距離を詰めようと動き出したが、ケビンは驚くべき行動に出た。
「そおれぇ!」
なんと、大きく振りかぶり、槍をザックスに向けて投げつけたのだ。それを見てセトラが呟く。
「確かに槍にはそういう使い方もあるけど、これは思いきったわね。もし避けられたら無防備になってしまうわよ」
ケビンの投げられた槍はザックスの元へと真っ直ぐに向かっていく。かなりのスピードだが、ザックスすんでのところでこれを避けた。しかし、少しかすったようで、ザックスに掛けられていた守護魔法の耐久値が少し削れたようだ。
「避けられたッス! 武器が手元にないケビンにはもう勝ち目がないッスよ!」
「いや……そうでもねえみてえだぜ」
ギルガの言う通りだった。
投げられた槍がザックスを通り越してから、ケビンは人差し指をくいっと曲げて呟いた。
「戻ってこい」
ケビンの呟きと共にザックスを通り越して、仕事を終えたと思えた槍が回転しながらケビンの元へと戻っていく。
ザックスもこれには虚を突かれたようで回転する槍をもろに脇腹で食らってしまった。
「ザックス!」
ペラルが思わず声を出した。守護魔法がダメージを肩代わりしているはずなので痛みはあまり無いはずだが。
ザックスを攻撃した槍はそのままケビンの元へと戻っていき、彼の手中へ収まる。
「……念魔法ね」
セトラが呟く。俺と契約した龍の一匹であるサイラジェスパが使用したテレキネシスと同じものだ。
「完全に油断してたね。槍が僕の元から離れたからチャンスだと思ったかい?」
ケビンは軽くザックスを挑発した。しかし、ザックスはにやりと笑う。
「いいな、それ。俺もやるわ!」
「え?」
「うおりゃああ!」
呆気に取られたケビンに向けて、ザックスは自分の持っていた両手剣を投げつけた。
両手剣は回転しながらケビンへと飛んでいく。とはいえ、さっきのケビンの槍投げとは違い、スピードはまるでない。
ケビンは一瞬驚いたものの、すぐに冷静になり、容易く避けた。
それを見てセトラは俺に尋ねてきた。
「ねえ、ユーガ君。もしかしてザックス君も念魔法使えたりするる?」
「いや、全く」
「それじゃ、どうすんのよ! 今度はザックス君が打つ手なしじゃない!」
「大丈夫。見ててな」
アリーナへと視線を戻す。
ザックスの投げた両手剣を避けたケビンはセトラと同じように念魔法の可能性を考慮し、視線を後ろに向けていた。
しかし、当然両手剣は動かない。ケビンは視線をザックスに戻した。その時だった。
「何余所見してやがんだケビン!」
声と共に何かがケビンの肩に命中する。
「うわっ!」
思わず叫び声を上げて尻餅を突く。
ケビンの目の前に先ほど肩に命中したものが音を立てて落ちた。
「……槍?」
ケビンの槍がいつの間にか奪われていた。という訳ではない。ちゃんとケビンの槍は手元にある。
つまり、さっきまでどこにも無かった筈の槍がザックスの元から飛んできたのだ。
「一体この槍は何処から……?」
「まだまだあるぜえ! 食らいやがれ!」
ザックスはいつの間にかそばに発生していた空中に浮かんだ穴のような物から無数の武器が投げつけた。剣や槍だけではない。斧や矢までもが飛んでくる。
「一体これはどういうことッスか!?」
「空間魔法よ」
驚愕するカゲマルにベラルは答える。その時のペラルの顔は完全にドヤ顔になっている。
「ザックスはね、元々、趣味で大量の武器を家にコレクションしていたの。旅に出ると決定してからは、大荷物で邪魔になるその武器を全部持っていけない事を非常に悔やんでいたわ」
ペラルの言う通り、ザックスの家には奴のコレクションがたんまりと存在していた。
「そこで、私は半年かけてザックスに大量の武器を保管するための空間魔法を習得させたの。魔法の苦手なあいつも武器のためならと死ぬ気で習得したわ」
「半年!? それは大変だったッスねえ」
「まあね。でも、ザックスと一緒にいれる大義名分が出来て私も幸せだった……って何言わせてんのよ!」
「べ、別に言わせたつもり無いッスよ……」
それを聞いて、俺とリオーネはくすりと笑う。ペラルがザックスに空間魔法を教えていたのは当然、俺達も知っていた。ザックスに厳しく教え込んでいたペラルは楽しそうだったな。
「と、とにかく! あいつは自分専用の空間から数百にも及ぶ武器を自在に取り出せる型の読めない戦士になったのよ! ほら、見てて!」
全員アリーナへと視線を戻す。
ザックスの無数の武器投げはまだ続いていた。
ケビンの周辺にはこれまた無数の武器が転がっていた。
「こ、これほどとは思わなかったよザックス。君がこんな高等魔法を使えるだなんて……」
「おっと、前だけ見てていいのか?」
ケビンは何かの気配を察知し、空へと目をやる。
空には大きな空間魔法の穴が空いていた。その穴からはこれまたザックスが保管していたであろう大量の武器が降り注いできた。
「これは……!」
「必殺! “ゲリラ鋼雨”だ! 食らいやがれ!」
「うわああぁぁっっ!!」
鋼の雨がケビンの元へと降り注ぎ、ケビンは砂煙に包まれた。
異世界で蘇ったら龍人になってしまったんだが ヒラ丸 @hira0
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