試験当日

 それから二日が経過し、騎士団の入団試験の日がやってきた。俺達四人とケビンを含めた五人は、朝早くから試験を受けるために王都の中心部にあるグレイン城の中庭へと集まっていた。

 俺達の他にも、腕に覚えがありそうな志願者達が多く集まっていた。


「やっぱり志願者は多いみたいだね」

「何だケビン。お前ビビってんのか?」


 ザックスがケビンの肩に手を回す。それに対してケビンは笑いながら答えた。


「まさか、むしろ腕がなるね」

「奇遇だな。俺もだ」


 二人は顔を合わせてニヤリと笑う。

 あれから、同じ宿で知り合い、なおかつ同じ騎士団の入団試験を受けるということで、ザックスとペラルにも紹介をしておいた。ケビンは二人とはすぐに打ち解け、まるで最初から友人だったかのように振る舞っている。つくづく、ザックスやペラルのコミュニケーション能力には驚かされる。


「あれ!? あんた達もこの試験受けるんスか!? なんという偶然!」


 振り返ると、そこにはドMの忍者ことカゲマルがいた。ペラルがカゲマルの姿を確認するなり、口を開く。


「あらカゲマル。あんたもこの試験受けるの?」

「そうッス! こうなったらお互いに頑張るッスよ!」


 カゲマルはやる気満々で答える。


「あっリオーネさん! 先日は申し訳ないことをしたッス! 改めて謝らせてほしいッス!」

「大丈夫よ。気にしていないから」

「それよりカゲマル。新しい恋とやらは見つかったのか?」


 俺の問いにカゲマルは首を横に振る。無理だったか。あんな口説き文句使っていたら当たり前だが。


「でも俺は諦めないッスよ! いつか美人で俺の事を徹底的に蔑んでくれる女性を見つけてやるッス!」

「いや一生そんな人見つからないと思うぞ」

「たとえ何と言われようが諦めないッス!」


 目に炎を宿しながらカゲマルは叫ぶ。あんまりそういうことを大声で喋らないでほしい。


「全員注目!」


 突然、気合いの入った声が中庭全体に響き渡った。


「これよりグレイン騎士団への入団試験を始める! 今回、団員の募集に集まってくれて大いに感謝する! しかし、実力の認められない者を軽々と入団させるわけにはいかない! 当然知っているだろうが、我々は近いうちに世界中の平和を脅かし続けている魔王との戦いに向けて動き出す! 足手まといと判断した者は即刻不合格とする!」


 団員らしき人が話を続ける。


「とはいえ、試験の内容は至極単純だ! これから志願者は闘技場に移動し、我々が抽選で選んだ志願者同士で合計三回模擬戦を行い、実力を示してもらう。勝敗は重要視していない。我々騎士団側が志願者の戦闘力を分析し、合否を判定する。それでは、志願者は闘技場に集まれ!」


 団員の話が終わると、志願者達がぞろぞろと一斉に動き出した。当然、俺達もそれに釣られて闘技場へと足を運んだ。


――――――――――


 闘技場に集まった俺達に先ほどの団員がまた大声で話し出した。


「それでは、模擬戦闘試験の詳しいルールを説明する。まず、戦闘前には我々の団員からの守護魔法を掛けさせてもらう。この守護魔法は規定値までのダメージを抑える効果がある。規定値を超え、先に守護魔法が解除されてしまった場合。戦意を喪失し、降参を宣言した場合、何らかの要因で気絶した場合は敗北と見なす。また、闘技場の周囲には結界が張ってある。そのため、外からの妨害行為はもちろん、内側からの攻撃が外へと出てしまうこともない。存分に戦うといい。第一試合の準備が出来るまで、全員観客席で待機だ」


 闘技場を見渡して造形を確認する。中心部には広大なアリーナが広がっており、それを取り囲むように観客席が設置されている。観客席には既に観客が集まってきている。最近知った話だが、騎士団の入団試験は一般にも公開されており、一種の娯楽となっているそうだ。


「ユーガ。早く席をとらないと座れなくなっちゃうッスよ! 早く行くッス!」


 カゲマルが俺を急かす。他の志願者達は観客席へと向かっている。志願者以外の観客もいるので、うかうかしていたら確かに取られそうだ。急がなくては。


――――――――――


 空いている席を発見し、俺達は席につく。奥側からペラル、リオーネ、ケビン、カゲマル、ザックス、俺の順番に座っていった。


「悪いッスね。ご一緒させてもらって」

「気にすんなよ。これも何かの縁だ」


 ザックスがカゲマルに笑って答えた。

 カゲマルの右隣に座っていたケビンがカゲマルに振り返った。


「ごめん。名乗るのが遅れてしまったね。僕はケビン・クリート。君は?」

「ご丁寧にどうもッス! カゲマル・フーマッス! これからよろしくッス!」


 二人の握手を見届けるとほぼ同時に、空いている左側から声が掛けられた。


「おいあんた。ここら辺の席空いてるか?」

「あ、はい。空いてますよ」

 

 答えてから振り返る。声の主は群青色の髪に目付きの悪い顔をした男だ。見覚えのある顔だった。あちらも見覚えがあったようで先に聞いてきた。


「お前……こないだのクレープ屋の奴か?」

「そうだ。また会ったな。ユーガ・サクマだ。よろしく頼むな」

「ん? 何だユーガ。そいつ知り合いか?」


 ザックスが身を乗り出して群青色の男を見て聞いてくる。


「一昨日に少しな……俺はギルガ・ソウルド。お前は?」

「おう! ザックス・コトーゼだ。よろしく頼むぜ」

「ん。よろしくな」


 ギルガは俺の左隣の席に腰を下ろし、一息つく。


「それにしても、お前も騎士団志願者だっとはな。まあよろしく頼むわ。お互い頑張ろーぜ」

「ああ、それよりクレープの代金ありがとな。何なら今返そうか?」

「気にすんなって、俺の奢りだ。ありがたく受けとれや」

「あ! ギルガ見っけ!」


 声と共に、三人の人物がこちらに向かってくる。

 一人目は先日、クレープをギルガにねだっていた男の子。二人目は水色の髪をした女性。三人目は一人目の男の子と同じくらいの年齢で銀髪の女の子だ。

 水色の髪の女性がギルガの頭をポンポンと叩いて言った。


「ナイスよギルガ。あんたもたまには使えるわね」

「うっせえ。さっさと座れ」


 水色の髪の女性はそのままギルガの左隣に座る。


「じゃあオレここに座るー!」


 少年は無邪気な顔でギルガの膝の上に座った。ギルガは顔をしかめて少年を膝からどかす。


「どけよダクラ。他の席空いてんだろ」

「いやだ! ここがいい!」

「てめえみてえなうるせえガキなんて隣に座ってるユーガに迷惑かかんだろうが」

「ああ、いいよ。俺の事は気にすんな」

「ほら! このにーちゃんもいいって行ってるじゃん! ここに座る!」


 ダクラと呼ばれた少年は頑として譲らない。水色の髪の女性は膝に銀髪の少女をちょこんと乗せながら言った。


「別にいいじゃない。減るもんじゃないし」

「地味におもてーんだよコイツ」

「それくらい男なんだから我慢しなさいよ。ねーレイラートー!」

「……うん」


 銀髪の少女は小さく頷いた。水色の髪の女性は俺の顔を見て声をかける。


「あっ、こめんね。君、ギルガの知り合いみたいね。私は“セトラ・ハートナー”。この男の子がダクラ。私の膝に乗ってるこの子はレイラートっていうの。皆よろしくね!」

「よろしくねにーちゃん!」

「……よろしく」


 三人は俺と俺の左側にいるザックス達に自己紹介をした。


「ああ、よろしく――」

「セトラさん! 俺と結婚して一生いたぶってなおかつ蔑んで欲しいッス!」


 カゲマルがいつの間にかセトラの目の前で跪き、例の口説き文句をほざいていた。

 そんな口説き文句はセトラは笑って返す。

 

「ごめんなさいね。私、そんな趣味は持っていないから」


 セトラに続き、ギルガは興味無さそうに耳をほじりながら言った。


「そうだやめとけ。こんなブスと付き合ってもロクな目に合わ」

 

 ゴンッ


 ギルガのこめかみにセトラの鋭い肘鉄がクリーンヒット。

 ギルガは白目を剥いて動かなくなった。

 カゲマルはそれを見て目を輝かせた。


「す、素晴らしいッス! 考え直してくれないッスか!?」

「だからそんな趣味は無いの」

「くうーっ! 残念ッス! あた新しい恋を見つけるッス!」

「「見つけるッス! じゃねえんだよ!」」


 俺とザックスでカゲマルの頭に拳骨をお見舞いした。


「痛いッス! 何するッスか! 野郎のいたぶりは一ミリも望んでいないッスよ!」


 ザックスはダクラとレイラートを指差して怒鳴り付ける。


「馬鹿かお前は! こんな小さな子供の前であんな告白する奴があるか!」


 俺もザックスに続く。


「賭けたっていいさ! 今のお前の性癖のままじゃ彼女なんてできやしねえよ!」

「あっ! 今言ってはいけない事を言ったッスね! 見てろッス! いつか完璧な女王様を見つけて見返してやるッス!」


 カゲマルはそう言って席に座る。それと同時に先ほどの騎士団員の声が放送によって響き渡る。


「第一試合の組み合わせを発表する。リオーネ・セルシュとトーマス・ナッシェルは控え室に来るように!」


 放送を聞いて、リオーネが立ち上がった。


「いきなりの出番ね。行ってくるわ」



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