王都到着

 あれから馬車を走らせて数十分。成り行きで加わったカゲマルを含めた俺達五人はようやく王都に到着することが出来た。

 世話になった馬車の御者達とも別れ、王都に足を踏み入れる。

 想像通り、城下町はたくさんの人々で賑わっており、見渡す限りたくさんの店が並んでいる。テナリオ村とは違った活気が溢れた所だ。


「では俺はこれで失礼するッス! ここまで大変世話になったッス! また機会があればお会いしましょう!」


 カゲマルは俺達に感謝を伝えた。何気なく俺は聞いてみる。


「何しにいくんだよ」

「ナンパッス! 俺の新たな恋を探しにいくッス! それでは!」


 カゲマルはそう言い残してどこかへと走り去っていった。翌日にでも変質者として指名手配されていないか心配だ。


「さて、私達は先に宿をとって荷物を置くわよ。その後にお店を見て回りましょ」


 リオーネの言った通りに俺達は荷物を持って宿へと向かった。


――――――――――


 宿に荷物を置き、俺達は城下町へと繰り出した。もちろん、この王都グレインへとやって来た理由は遊びに来たのではなく、あくまでも騎士団の入団テストを受けるためなのだが、入団テストの予定日は明後日だ。今日ぐらいは羽を伸ばしても大丈夫だろう。


「見てリオーネ! あの服可愛くない!? 一緒に見ていこうよ!」

「本当ね! 行きましょ!」


 リオーネとペラルは服屋を見つけるなり二人でさっさとそっちへ向かっていった。


「見てみろユーガ! あの武器かっこよくねえか!? 一緒に行こうぜ!」


 ザックスの指差した先には見たこともない武具が並んでいる武器屋がある。俺もそれに興味を引かれ、ザックスと共に駆け込もうとした。


―――ねえユーガ! 私あのクレープ食べたい! あれ買って後でこっちに持ってきてよ!


 念龍サイラジェスパが語りかけてくる。確かにすぐそこにクレープ屋はあった。買ってやりたいが、ザックスを差し置いてそっちに行くわけにもいかない。


―――先にあの武器見たいから後でな

―――やだ! 今食べたい!

―――後でだ!

―――いーやーだ!


 我が儘な奴だ。肩を竦めながらザックスに目をやる。


「悪いザックス。サイラジェスパが駄々こね出してクレープ食いたいってさ。先に行っといてくれ」

「おうそうか! 気にすんな!」


 ザックスは武器屋へと駆け込んでいった。俺もずぐそこのクレープ屋へと足を運ぶ。

 ……クレープがあと一つしか残っていない。今すぐに取らないと品切れになってしまうだろう。仮に無くなってしまっても時間が経てば補充されるだろうが、サイラジェスパがそれを許さないだろう。


―――ユーガ! 早くとって!

―――わかってる!


 俺は残り一つのクレープに急いで手を伸ばす。


 ガシッ!


 俺のとは違う別の手が俺の手と同時にクレープを握っていた。

 手の主を見る。群青色の髪をした目つきの悪い男だった。


「あ、すいません」

「わりぃ」


 二人同時にクレープから手を離す。お互い譲り合ってしまっている。どうするべきか。


「ねえギルガ! 早く買ってよ!」


 群青色の髪の男の裾を後ろから小さな男の子が引っ張った。兄弟だろうか。ギルガと呼ばれた男はその男の子に目をやる。


「馬鹿が。お前の我が儘で人様に迷惑かけられるか。おいあんた。とっていいぞ」

「駄目だよギルガ! それオレの物だもん!」


―――ユーガ! 遠慮なく受け取って! 私の物よ!


 幼い子供を差し置いてそんな大人気ないこと出来るか。サイラジェスパを無視して俺は譲る事にした。


「いえ、どーぞ。俺は後で補充される奴買うんで」

「……そこまで言うならお言葉に甘えさせてもらうわ。わりぃな」


 ギルガと呼ばれていた男は申し訳なさそうにクレープを購入し、男の子に投げ渡す。


「わーい! いっただっきまーす! モグモグ……うまーい!」


 男の子は満足そうにクレープを食べ始める。さて、俺は新しいクレープが出来上がるまで待つか。

 数分後、新たなクレープが出来上がり、それを手に取る。料金を払おうと懐をまさぐったところでギルガが俺の前に割り込んだ。


「待て。あんたには迷惑かけたからな。俺が払うわ」

「そんなことしてもらわなくて大丈夫です。気にしてませんから」

「いいから。こうでもしねーと俺が納得しねーんだよ」

「それじゃあお言葉に甘えさせて頂きます」

「気にすんな」

 

 そう言ってギルガは俺の代わりにクレープの料金を支払った。


「あっ! いたいた! あんたらこんなとこで何やってんのよ!」

「探したのよ……まったく…」


 声と共に二人の人物がこちらへと走ってくる。水色の髪の女性と銀髪の幼い女の子だ。ギルガが素っ気なく二人に返事をした。


「なんだてめえらか。こいつがクレープ食いたいって聞かなくてよ」


 ギルガが男の子の頭を掴み、ワシャワシャとかき乱した。

 水色の髪の女性は俺を一瞥し、ギルガに聞いた。


「あんたまさかまた人に喧嘩売ったんじゃないでしょうね!?」

「売ってねーよ。勝手に決めつけんな」

「それならよかった……そんなことよりもギルガ! まだやること色々あるんだからこっち来なさい!」

「……チッ。うるせーな。わかった行くよ。じゃあな」

「ああ、クレープありがとな」


 ギルガと別れの挨拶を済まして俺もここから離れようとした。

 しかし、ギルガと一緒にいた男の子がクレープを食べながらこちらをじっと見つめてくる。顔に何か変な物でも付いているのだろうか?


「……」

「……」


 お互いに黙ったまま見つめ合う。その沈黙をギルガが男の子に声をかけて打ち破った。


「おい何やってんだダクラ! 行くぞ!」

「あっ! 待ってよ!」


 男の子はクレープを頬張ってギルガの元に向かっていった。途中で一瞬だけ俺に目を向けたが、すぐに走り去っていった。

 何だったんだろうと思いつつ、俺は近くにあったベンチに腰掛け、意識を龍空間に飛ばした。今はサイラジェスパの姿以外見えない。他の龍達は個室にいるようだ。龍空間に着くなりクレープをサイラジェスパに渡す。


「ほらよサイラジェスパ。じゃあ俺すぐ行くとこあるから」

「わーい! ユーガありがとう!」


 昨晩の出来事をいじられないうちにすぐに龍空間から脱出。そのまま、ザックスのいる武器屋へと向かっていった。







 





 

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