似た者同士
そんなこんなで村を出てから二日目の夜が訪れた。馬車は走るのを止め、次の朝が訪れるのを待っている。その間、交代で魔物の襲撃に備えた見張りをしておく必要があった。俺は今、その見張りのために外で辺りを見張っている。馬車の中ではリオーネとザックスとペラルが今なお眠っている。
もちろん、この夜の間、ずっと俺一人で見張りをするわけではない。次の見張りのペラルと交代するまでの間だけだ。
しかし、ずっと見張っているものの、魔物が襲撃してくる様子はない。交代の時間までに一人で出来ることといえば剣の素振りくらいだった。
一人で延々と素振りをしていると馬車の中から人影が出てくる。人影の正体はペラルだった。
「どうした? 交代までまだ時間はあるぞ」
「わかってる。起きちゃったからなんとなく話しに来ただけ」
ペラルは近くにあった岩に座り込んだ。俺は素振りを続けながら聞いてみる。
「眠れないのか?」
「ええ、ザックスの近くで寝ると思うととてもとても……って何てこと言わせるのよ!」
「……別に言わせたつもりないんだけど」
周囲に魔物の気配がないことを確認してから、ペラルに意地の悪い提案をしてみた。
「さっさと告白したらどうだ? そうすりゃ楽になるだろ」
二人の距離はこの半年間、ほとんど進展していないと言っても過言ではなかった。ペラルは苦笑いをしながら返事をする。
「そんなのできたら苦労しないわよ」
その返事を聞いたのか頭の中にクアウォルトの声が響く。
―――ユーガ……もう少し女心を理解した方がいい
それに続き、イアードの声も聞こえる。
―――それは無理だぞクアウォルト。なんせこいつは童貞だからな
お前はあとでしばく。とはいえ、確かに俺もデリカシーのないことを言ってしまった。すぐにペラルに謝罪する。
「悪い。無神経なこと言ってしまって」
「別にいいわよ。それよりユーガ君の方はどうなの?」
ペラルは口元に笑みを浮かべて聞いてきた。思わず素振りを止めてしまった。まあ待て。慌てることなんて何一つない。俺は平常心を保ちつつで返事をした。
「ナンノコトダカワカラナイナ」
「……ユーガ君もそうとう分かりやすいわね」
普通に返事した筈なのに何でわかった? まさかペラルは人の心を読む魔法でも使えるのか? 俺は引き続き平常心で答える。
「チガウ。アクマデオレハリオーネノコトハイノチノオンジントシカミテイナイ」
「私一言もリオーネがどうとかなんて言ってないけど」
ペラルはにやけたままそう返事をした。
……駄目だ。このまま話を続けたら更なるボロを出すかもしれない。逃げよう。
「ああーっ!! 話しているうちに交代の時間が来ちゃったな! 後は任せたペラル! 俺スッゲー眠いから寝るわ! おやすみ!」
「……そうね、任せて」
ペラルは岩から立ち上がる。そして馬車の中へと戻る俺に肩を置いて声をかける。
「お互い頑張ろ!」
「何のことを言ってるかわっかんねえな! 寝る!」
馬車の中に戻るなり寝転んて目を閉じる。今回限りは龍空間には行かない。龍達(あいつら)絶対いじり倒しにくるに決まっているからだ。
ゴソッ
誰かが寝返りを打つ音が聞こえたので目を開けた。寝返りを打ったのはリオーネだ。寝返りを打ったことによりリオーネの寝顔がこちらに向く。それを見て俺は慌てて毛布を被った。
……駄目だ。落ち着いて眠れない。何でだ? 昨日の夜はなんとも思わずすぐに眠れたのに……。
ペラルめ、余計な話題を振らなければこんなことにならなかったのに。これじゃ、ザックスのせいで眠れないペラルと一緒じゃないか。
――――――――――
「ねえユーガ。隈がすごいけど昨日ちゃんと寝れていないの?」
「だ、大丈夫。ちゃんと寝たさ」
嘘。結局、朝まで寝られなかった。
ペラルを睨み付ける。彼女は意地の悪い表情でこっちを見て笑っている。おのれペラルめ、俺がデリカシーのないことを言ってしまった事に対する細やかな復讐か。
……結局、眠れなかったのはペラルも一緒だったようで、彼女の目元にも隈が出来ていた。案外、俺達は似た者同士なのかもしれない、
「おーい皆! 見えてきたぜ! 王都グレインだ!」
外の景色を眺めていたザックスの大声に反応し、俺達も馬車の外に身を乗り出した。
まだまだ距離はあるが、王都グレインは確かに見えた。巨大な関所の向こうには大きな城がある。ここからでは城壁に遮られていてよく見えないがあの城の周囲には城下町があるのだろう。
「すげえ……」
遠くから見える城をみて思わず漏らす。改めてこの世界は前の世界とは違うという事を思い知らされる。
「なんだかわくわくしてきたわ!」
「そうね。話に聞いていたけどあんな大きな建物が本当にあるだなんて……」
リオーネとペラルはグレインの城を見て呆気に取られている。ここまで来たら到着まであと僅かだ。しかし、馬車は突然足を止めた。
「人が倒れているぞ!」
御者の声を聞き、俺達は咄嗟に外へ出る。御者の言った通り、馬車の進路には赤髪の男が倒れていた。俺とザックスは慌てて倒れている男の元に駆け寄る。見たところ外傷は無さそうだ。
「無事なの!? 息はある!?」
「大丈夫だ。息はある。とりあえずこのまま馬車へ運ぶぞ!」
俺とザックスで男の肩を持ち上げ、馬車へ運んでいった。
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