VSヘビーアナコンダ
馬車の外へ出るなり俺は一匹のヘビーアナコンダの方向へと走っていく。距離を詰めるに連れ、この魔物の長さ相当なものだと分かる。30メートルは超えているんじゃないか。
四ヶ月前の俺なら確実に腰を抜かしてそのまま食われていただろう。しかし、俺は半年前とは違う。こんな奴、“あいつら”に比べたら全然マシだ。
ヘビーアナコンダはこちらに気づき、大きな口を開け、俺を喰おうと勢いよく頭を突き出す。横っ飛びをして避け、そのままスピードを殺さずに胴体をドレイクで薙ぎ払う。
シャアアアァァッ!
ヘビーアナコンダは鳴き声を上げ、俺に向けて口から何か液体のような物を吐き出した。
難なく避ける。吐き出された液体はジュウッと音を立てて地面を溶かした。
「毒か……」
人間が直接浴びてしまったらひとたまりもないだろう。万が一馬車にでも吐き出されたら大変だ。
「さっさと龍化で終わらせるか……」
別に俺一人で倒す必要もない。そう思い、龍の力を借りようとした。しかし……
―――私の力で溺れさせる
―――我の炎で焼く。引っ込め
―――俺だ! あんなの雷撃で一発だ!
―――俺の出番や! どいてろ!
―――あんたら引っ込んでなさい! あたしが行くわ!
―――いえ、私に行かせてくださいユーガ様
―――拙者が行く
―――わしじゃ!
―――私に任せていればいいのです。あなた達は必要ありません
―――ユーガ! 私に任せてよ! あんなのすぐにやっつけちゃうんだから!
―――み、皆さん……喧嘩はやめてくださいよ……
―――うっせえな……人が寝てるのに騒ぐなよ……吹き飛ばすぞ……
……龍達の声が頭に響いてくる。こいつらには譲り合いの精神が無いのだろうか。龍達の口喧嘩なんて日常茶飯事だがこんな時にまでやらなくてもいいだろうが。
―――お前じゃ力不足だ! どいてろ!
―――ああ!? やるかコラ!
―――や……やめてください! 暴れないで!
―――何しとんねんお前ら! 殺すぞ!
本格的に喧嘩が始まる。思わず俺は叫んでいた。
「うるっせえんだよ! もういい! 俺一人でやる!」
叫び終わり、ヘビーアナコンダの尻尾へと向かう。尻尾に近づくとヘビーアナコンダは尻尾を宙に持ち上げ、俺の元へと振り下ろした。
「遅い!」
振り下ろされた尻尾に飛び乗り、ドレイクを突き刺す。ドレイクを突き刺したままヘビーアナコンダの上に乗り、頭部に向けて走り出した。
当然、ヘビーアナコンダは俺を振り落とそうと暴れ回るが、振り落とされないように時折しがみつきつつ、頭部へと向かう。
やがて、首元まで辿り着き、大きく飛び上がる。
「そこだ!」
落下と同時にヘビーアナコンダの首に向けてドレイクを渾身の力を込めて振り下ろした。
ズバッ!
ヘビーアナコンダの首が断面から血を吹き出しながら胴体から離れる。俺もそのまま地面に着地する。
「さて、リオーネ達は大丈夫か?」
まずリオーネの方を見る。彼女は既に剣を納め、馬車に向かっていっている。恐らく俺が龍達の口喧嘩を聞いている頃にはもう倒していたのだろう。まだまだリオーネには敵いそうにない。
次にザックスを見る。こちらも心配なさそうだ。ザックスの相手していたヘビーアナコンダは多数の傷を負って倒れ伏していた。
次にペラル。ヘビーアナコンダが黒焦げになっている炎魔法を使ったのだろう。
ザックスがこちらを見るなり走って近づいてくる。
「ユーガー! 俺の戦い見てたかー!?」
「いや悪い。見てなかったわ」
「なんだあ、まあいいや。魔物も片付けたし馬車に戻ろうぜ」
――――――――――
馬車が再び走り出す。それにあわせてリオーネが俺に質問してきた。
「ねえユーガ。さっきの戦いの時に『うるせえんだよ!』って叫んでいたけどどうしたの?」
……聞かれてたかあっ! なんか前にも似たようなことがあった気がする。
「それあたしも聞いたわ」
「そういや、俺も聞いたな」
「実はな……」
俺は龍達の喧嘩しだしたことについて話し始める。話が終わると共に、ザックスが口を開いた。
「そういや俺らってユーガから話を聞かされているだけで龍達と直接話した事ってないよな?」
ザックスの言葉にリオーネとペラルは頷いた。
「そうね……何だっけ? 龍空間って所で話しているんだっけ?」
「一回話してみたいわね。ユーガ、どうにかならない?」
「どうにかって言われても……」
龍達は俺の中の龍空間に存在しており、基本的には俺以外の人間との会話なんて出来ない。リオーネ達にも龍達を紹介したいという気持ちもあったが、無理なことだと諦めていた
俺が頭を悩ませていると、頭の中にゼプランテの声が聞こえてきた。
―――お困りのようじゃのユーガ。助言を与えてやろうか?
―――何か方法があるのか?
―――ある。龍空間の中にお前だけではない他の人間の意識を持っていく方法じゃ
何だあるのか。半年以上龍達と共にいたが始めて知った。俺はリオーネ達に答える。
「今ゼプランテに聞いたんだが皆の意識を龍空間に持っていく方法があるらしい」
ザックスが目を輝かせて俺に顔を近づけてくる。
「マジかよ! どうやんだ!?」
「あたしも行きたい!」
「私も興味あるわね」
三人とも食いついてきた。俺は再びゼプランテの声に耳を傾ける。
―――ゼプランテ。どうやるんだ?
―――そうじゃな……まず龍空間に送り込みたい人間の胸に手を当てるんじゃ
―――わかった。胸だな
俺はリオーネに向けて右手を少し浮かせたがすぐに元に戻した。
―――待てゼプランテ。そんなこと出来るわけねえだろ
―――出来るだけ心臓に近いところを直接触れる必要があるんじゃ! 頑張れ童貞!
―――誰が童貞だクソジジイ! 他に方法はないのか!
―――そうじゃな……代わりの方法ならある。胸の代わりに尻をギャアアァァッ!!
悲鳴を最後にゼプランテの声が聞こえなくなった。しばらくすると別の声が聞こえてくる。
―――ユーガ! ゼプじいちゃんのセクハラ発言なんて本気にしちゃダメだよ! 送り込みたい人間に目を瞑ってもらってそれを見ながら『送りたい!』って念じるだけでいいの!
―――そうか、ありがとなサイラジェスパ。それよりゼプランテはどうした?
―――メス全員で血祭りに上げといた!
ナイス血祭り。俺は再びリオーネ達に向き直り龍空間に送り込む方法を説明した。俺の説明を聞き、リオーネ達は目を閉じる。
サイラジェスパの言う通り、三人を見て念じる。すると三人は眠ったように動かなくなった
さて、これで送れたか? 俺も龍空間へと意識を飛ばした。
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