王都へと旅立ち

 朝の日差しと鳥の鳴き声で目を覚ます。目を覚ますとは言ったが夢を見ていた訳ではなく、いつも通り龍達の空間もとい“龍空間”で龍達と何戦か交えていた所だ。

 ベッドから立ち上がり、あらかじめ用意していた手荷物を背負う。中身は着替えや武器屋コトーゼで働いて手にしたお金といったこれからの王都での生活に向けての必需品が入っている。

 寝癖を直し、寝間着から普段着へと着替え終えると部屋の扉がノックも無しに開かれた。ザックスだ。


「起きてたかユーガ。朝飯食おうぜ」

「わかった。行こう」


 手荷物を持ち、ザックスと共に一階へ降りる。既に朝食はテーブルに並んでおり、親父さんとお袋さんも席について朝食を食べていた。


「おはようさん、とうとう今日王都へ出発するんだよな。頑張れよ」

「二人とも体に気をつけるんだよ。決して無理するんじゃないよ」


 二人は俺達に向けて激励の言葉を送ってくれた。そう、今日は王都へ出発する予定日なのだ。


「分かっています。半年間お世話になりました」


 俺は深々と頭を下げた。


「今さらそんなこと気にしなくていいんだよ。それにしてもユーガ君……何と言うか……面構え変わった?」


 お袋さんが俺の顔をまじまじと覗き込んだ。


「そりゃお前。半年だけとはいえあのグリーデやユーガの中の龍達と休みもなく修行してたら雰囲気ぐらい変わるさ」

「それもそうだねえ」


 自分の顔は毎日鏡で見ていたが、特に変わったとは感じなかった。自分の顔の変化なんて気がつかなくて当然か。

 やがて朝食を食べ終わり、手荷物を持ってザックスと共に店を出る。親父さんとお袋さんも俺達を見送ろうとついて来てくれる。

 ふと武器屋コトーゼの方向へ振り返った。四ヶ月間世話になった建物を見て呟いた。


「今日でこことお別れか……」


 優しいコトーゼ家の人達、暖かい食事、掛け替えのない日々……厳しい修行や時々襲ってくる魔物達……色々あったがどれも大事な思い出だ。

 親父さんが俺の呟きを聞いて笑いながら答えた。


「なぁに。魔王をぶっ倒した後にまた帰ってこればいいさ。お前はもう俺の家族だ」


 親父さんの言葉に俺も笑って答える。


「そう言って貰えるとありがたいです」


 視線を店から外し、村の入り口へと向かい始める。


――――――――――


 村の入り口には既に人集りが出来ていた。この人達は皆、俺達を見送りに来たのだろうか? 

 人集りの中から村人と会話をしているリオーネとペラルの姿を見つけた。二人はこちらに気づくなり手を振る。俺とザックスは二人に駆け寄った。


「お前らもう来ていたのか。はええな」

「まあね」


 ペラルは胸を張る。


「なんだか居ても立っても居られなくなっちゃって」


 リオーネはザックスにそう答え、俺を見る。


「ユーガ、来てるわよ」

「言われなくても分かってるさ」


 言い終わると同時に俺はすぐさま剣を抜き、後ろに振り返る。


 ガキイィィン!


 何処からともなく現れたグリーデ師匠の斬撃を防ぎ、周囲にけたたましい金属音が鳴り響いた。

 別に珍しい事じゃない。普段、村を歩いている時でも結構な頻度で斬りかかられている。もちろんこれも修行の一環で、普段から気を抜かずにしておけと言うことらしい。

 

「師匠。最後まで変わらないですね」

「当たり前だ。どんな時でも油断をするのは許さねえ」


 端から見たらただの辻斬りだが。

 師匠は剣を納めるなり、俺達四人に向けて言い放った。


「余計な事はグダグダ言わねえよ。誰も死なねえで魔王ぶった斬って来い」

『はい!』


 俺達は四人揃って返事をした。


「それとだ、ユーガ」

「はい?」


 師匠は俺に小さな声で聞こえないように耳打ちする。


「リオーネを都会の猿共に指一本触れさせんじゃねえぞ。もしもそんな輩がいやがったらぶった斬れ。俺が許可する」

「……弟子に人殺しの許可を与えないでくださいよ」

「うっせ、命令だ。従え」

「はい……」


 極度な束縛こそ無くなったものの、この人の親馬鹿っぷりは変わらなかった。

 

――――――――――


 たくさんの人々に見送られ、俺達はテナリオ村を出発した。

 王都グレインへは、ペラルの親御さんが手配してくれた馬車で向かう事になっていた。

 テナリオ村と王都グレインは同じノグラード王国にあるのだが、この国の領地はかなりの広さを誇ると言われており、両者の間にはかなりの距離がある。テナリオ村はノグラード王国の西端に位置しているらしい。

 テナリオ村から馬車でおよそ三日。着くまでは結構暇だ。馬車の中でやれることなんて限られている。

 最初の二時間ほどはリオーネ達と雑談により簡単に潰せた。しかし、話題も尽きれば眠くもなってくる。そこまで広くない馬車内で鍛練なんてしようにもなかった。他の三人は既に寝ており、暇潰しに龍空間にでも意識を飛ばそうかと目を閉じたその時だった。


「まずい! 魔物だ!」


 御者の叫び声で眠気が一気に吹き飛んだ。四人揃って馬車の外を覗き込む。四匹の巨大な蛇の魔物がこちらへと向かってくる。


「ヘビーアナコンダ四匹か……まずいわね。このままじゃ、この馬車が危ないわね」


 ペラルが冷や汗を垂らす。そんなペラルの肩に手を置き、ザックスが口を開いた。


「だからってびびっている場合じゃねえだろ? 行くぞ! 一人一匹だ!」

「い、言われなくても分かってるわよ! 勝手に触らないでよ!」


 ペラルは顔を赤くしながらザックスと共に馬車の外へ出る。

 

「それじゃ、俺達も行くか」

「そうね。ちゃちゃっと片付けちゃいましょ」


 俺とリオーネは抜刀し、馬車の外へ飛び出した。

 











 



 

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