二つの修行

「ユーガ! 大丈夫か!?」


 ザックス達がが慌てて俺の元へ駆け寄ってくる。

 正直、あまり大丈夫ではない。全身が痛い。

 ペラルが急いで回復魔法をかけてくれているが、痛みが和らがない。


「駄目……急いで病院で本格的な治療を受けないと……」

「まずはこいつを病院に連れて行かねえとな」


 グリーデが俺を肩に乗せて歩き出した。

 歩き出すグリーデにザックス達が続く。


「……リオーネ」


 グリーデはリオーネに声をかける。


「何?」

「……悪かったな。お前を束縛しちまってて」


 グリーデの声に威厳は無かった。

 リオーネは首を横に振る。


「もういいのよ、私の事を大事に思ってくれてそうしてたんでしょ?」


 そう言って、リオーネは俺に声をかける。


「ねえ、ユーガ。さっき、私のことを命に代えても守るって言ってくれたわよね」

「……そうだな」


 自分の台詞を思い出し、恥ずかしくなってくる。思わず視線をそらす。


「ありがとう。嬉しかった。でも、私だって負けられない。私もユーガの事を命に代えても守ってみせる」


 リオーネは笑ってそう言った。

 

「じゃあ俺は守られた回数の二倍分守り返す」

「じゃあ私はその倍ね」

「いや、だったら俺はその倍だ」

「さらにその百倍守り返すわ」

「待って、今何倍になってる?」


 言ってから俺はリオーネと同時に笑い出した。

 ザックス達もそれに続き、笑い出す。

 その賑やかな様子をグリーデも優しい笑みを浮かべ、見守っていた。

 ほんの少しだが、俺の最終目標である魔王討伐へと近づけただろうか。


―――――――――――――


 やがて、俺は病院で本格的な治療を受け、またも入院することになった。とはいえ、一日だけだ。あれだけの怪我がそんな短期間で治るとはつくづく、この世界の医療はすごい。

 病室に案内され、リオーネ達と数十分程の雑談を終え、部屋の明かりを消し、布団に潜り込んだ。

 


 当然のように、夢なんて見れなかった。龍達の空間に着くなり、クアウォルトが俺の顔を除き込んで来た。


「大丈夫かユーガ!? 精神は崩壊していないか!?」

「大丈夫だ。心配するな。つーか誰だお前」


 俺に対する態度が以前のクアウォルトとは随分と違って見えた。もしかしたら姿が似ている別人……いや、別龍だろうか。


「私の事を忘れたのか!? クアウォルトだ!」

「あっそう……何て言うか……変わったな」

「それが本来のクアウォルトだぜ、ユーガ」


 近くにいたサンデリオンがクアウォルトを見つめ、呟く。


「長いこと、レンの奴のせいで人間不信になってたけど、お前を認めだしてから昔の性格に戻っていったんだ」

「すまなかったユーガ! 私はどうかしていたようだ。お前に吐いた罵詈雑言の数々……今更許してくれとは言わない! 私の事が不愉快なら、今すぐここから立ち去ろう!」


 クアウォルトは頭を下げる。

 俺は慌ててクアウォルトに駆け寄る。


「やめろ、いいって! 気にしてないから!」

「本当か!?」

「本当だ! 頭なんか下げるなよ!」


 クアウォルトに頭を上げさせると、今度はサンデリオンとイアードがこちらに近付いてくる。そして、にやけながら聞いてきた。


「そんで? リオーネに告ってみてどうだった?」


 サンデリオンに続き、イアードも聞いてくる。


「お前の事だ。異性に告白するなど初めてだったのだろう?」


 何を言ってるんだこいつら。俺は慌てて否定した。


「ああ!? あれは告白じゃねえし! 俺はただリオーネに恩があったからその分を返したかっただけで……!」

「うわっ、童貞の反応だな」

「うるせえんだよ!」


 何で知ってるんだこの野郎。


「とまあ、冗談はここまでにしておこう」


 イアードの表情が急に真剣な表情に変わる。


「確か貴様は半年間、グリーデに修行をつけてもらうことになったんだったな」

「そうだけど……それがどうかしたか?」


 俺に首を伸ばし、サンデリオンが聞いてくる。


「お前、ただの人間がたった半年で劇的に変われると思うか?」


 どうなのだろう。あの人の修行は恐らく非常に厳しい事だろう。それでも四ヶ月でどこまで変われるか。


「そこでじゃ、これからの半年間、毎晩わしらがお前に修行をつける」

「それは心強いな!」


 グリーデの修行に龍達の修行が合わされば、半年でも相当な成果が出るだろう。辛いのは間違いないだろうが、もう四の五の言ってはいられない。


「それで、具体的に何をするんだ?」

「単純な話じゃ。わしら龍達を殺してみよ。もちろん、龍化を使うのは禁止じゃ」

「……は? そんなこと出来るわけないだろ。二重の意味で」


 龍達をとても殺すことなんて出来ないし、そもそもまともにやりあったところで勝てるわけがない。


「心配するな。この空間で我らが死んだとしてもすぐに生き返る。存分にやれ。もちろん、お前が死んでも同じだ」


 イアードの言葉が終わると同時に、辺りが暗くなった。

 いや、暗くなったのではない。上方を見上げると、なにか大きな物体が俺の元へ落下してきている。

 あれは……氷塊だ!

 これも誰かの龍法なのか!?

 考えている余裕はない。今からでも避けなければ。

 駄目だ間に合わない。思わず、情けない断末魔を上げてしまう。


「ぎゃあああぁぁ!」


グシャッ


―――――――――――


「目を覚ましたかユーガ!」


 目の前には心配そうにこちらを見つめるクアウォルトの姿があった。しばらく意識が飛んでいた。何があった?


「すげえな! さっきまでここには血だまりしかなかったのにもう再生しやがった!」


 騒ぐサンデリオンの言葉を聞き、何が起こったのか整理してみる。


「俺、死んでたのか?」


 龍達は揃って頷いた。


「あの氷は一体誰が落としたんだ?」

「私です」


 聞き慣れない声が聞こえた。声に続き、奥の方からぞろぞろと、多くの見慣れない龍達が姿を表す。まだ俺のことを認めていない龍達だろう。

 数が多い。俺は一体何匹の龍達と契約させられたんだ?

 やがて、龍達の先頭にいた。氷のような甲殻に体を覆われた龍が口を開いた。


「私の名は氷龍アイゼラス。ユーガ・サクマ、先日のあなたの心意気は聞かせてもらっていました」


 先日……俺がレンの罪を償うと叫んだ時の事か。アイゼラスは話を続ける。


「あなたの心意気は認めましょう。ですが、それだけであなたに力を貸すほど甘くはありません」


 アイゼラスに続いて、別の龍が言った。


「俺達全員をお前自信の手で倒し、力を示してみろ。機会はいくらでもやる。これを受けとれ」


 突如、俺の上から何かが落ちてくる。それは俺の目の前の床に落下し、突き刺さった。それは剣だった。美しく輝く刀身に、黒い柄。思わず地面に刺さったそれを引き抜く。

 引き抜き終わると、イアードが剣を指差す。


「それは我らの龍素を固形化させて作り出した龍剣“ドレイク”。それを使うのは許可してやる。どうだ? やるか?」


 拒否する理由なんてもちろんない。力をつけるためなら何だってやるさ。


「やってやる!」


 俺は龍達に剣を振りかざし、龍達の元へ向かっていった。




 


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