男の戦い

 リオーネのお袋さんが魔王の手先に殺された?

 それにも関わらず、俺はリオーネを旅に連れ出そうとしてたのか?

 そんなことがあったのならば、二度と同じことが起きないように反対するのなんて当たり前じゃないか。

 グリーデは言葉が出てこない俺に対し、話を続ける。


「この件も10年前のことだ。この庭でリオーネと妻が仲良く遊んでいた時、その魔物はこの家を襲ってきやがった。一瞬だった。そいつはリオーネの目の前で妻を殺しやがったんだ」


 グリーデは歯を食いしばる。


「何よりも俺の一番の失態はそいつを取り逃がしたことだ! 俺が無力だったばかりにな! 当然、そいつを見つけ出してぶっ殺そうって考えたさ! 何年も何年も探した! 結局、血反吐吐くまで探しても何も見つからなかった」


 グリーデの顔が険しくなってくる。


「だから、俺があいつの分までリオーネを守ってやんなきゃいけねえんだよ! もしこのまま旅に出してリオーネに何かあったら俺はお前を決して許さねえぞ」


 ザックスとペラルはこの事を知っていたからこそ、リオーネを強く引き留めなかったのだろう。

 それに引き換え、俺はなんて事をしようとしていたんだ?

 魔王の討伐にリオーネを巻き込もうとした。楽しそうだとか軽い気持ちで連れていこうとしてしまった。

 それでも俺はようやく出てきた反論をグリーデにぶつける。


「前にも行っただろ。俺の力は皆を守るために使うって。リオーネも必ず守りきって――」


 腹に衝撃が走り、俺は数メートルもの距離を吹っ飛ばされた。

グリーデに膝蹴りを決められたのだ。


「お前の力? 笑わせんな。正しくはお前の中の龍達の力だろ。自分一人じゃ何も出来ねえ奴が無責任な事抜かしてんじゃねえぞ」

 

 自分の力じゃ何も出来ない。そんなことは前から分かっていた。凄い力を持っているのは龍達であって俺ではない。

 俺は何も言えず、腹を押さえ、グリーデに背を向け、歩きだした。自分の無神経さに反吐が出る。

 そもそも、俺は魔王討伐に仲間を連れていくべきではないのではないだろうか。そうだ。リオーネだけじゃない。ザックスとペラルもこの村にいさせた方が安全だ。

 帰ったら、そう話をつけよう。大丈夫だ。龍達の力を使えば俺一人でも魔王なら倒せるに決まっている。大丈夫、大丈夫だ。


「ユーガ!! お前諦めんのか!!」


 すっかり聞き慣れた声が周囲に響く。顔をあげ、声の主を見る。

 ザックスだ。ペラルもそばにいる。

 おそらく、敷地の外から俺達の様子をこっそり見ていたのだろう。


「無理だ。俺にリオーネを連れていく資格なんてない」

「資格なんて関係ないだろ! リオーネが言ってただろ! 一緒に旅が出来たら楽しいだろうなって! あいつだって本当は行きてえんだよ!」


 俺にそう言って今度はグリーデに向かい合った。


「オッサン、俺の親父が言ってたぜ。子供の自立を止める親がいてたまるかってな」

「俺はお前んとこの能天気親父とは違う。妻を救えなかった分、俺は娘の自立を邪魔してでもあいつの命を守らなきゃいけねえんだよ」

「いつまで過去の事引きずってんだ! 子供の自立を邪魔する親父なんざ糞食らえだ!」


 グリーデが拳に力を込めたのが見て分かった。俺は咄嗟にザックスを押し退け、代わりに顔面に拳を食らう。


「おいユーガ! お前……」

「悪いなザックス、ここは俺に任せてくれないか」

「何言ってんだ! お前もうフラフラじゃねえか!」

「頼む」


 ザックスは俺の顔を見て、了承したようだ。

 ゆっくりと俺から距離をとる。

 やっぱ駄目だ。俺はこいつらと旅がしたい。俺の力で守ってやりたい。龍達の力ではなく、俺自身の力で。

 そして俺は、地べたに膝をつき、続いて頭と手つける。土下座だ。


「改めてお願いします。リオーネの旅立ちを許可してください。龍達の力なんて関係なく、守る力を身につけますから」

「駄目だ」


 一蹴され、グリーデに蹴飛ばされる。

 俺は土下座をする。

 頭を踏んづけられる。

 痛い。苦しい。死にそうだ。

 でも、諦めない。俺は俺の我を通す。


――ペラル――


 駄目、あのままじゃユーガ君が死んでしまう。

せっかく、おじ様から解放されたばかりなのにまた苦しめられている。回復魔法をかけようとユーガ君に手を伸ばす。


「やめろ、ペラル! あいつは今戦ってんだ! 男と男の戦いに水を差すんじゃねえ!」


 ザックスに力強く腕を掴まれて、思わず魔法を中断する。大きな手だった。自分でも顔が赤くなっているのが分かる。


「わ、分かったから離しなさいよ! こ、恋人でもないのに手を繋ごうなんて!」

「はあ? 何言ってんだお前?」


 こんな馬鹿なやり取りをしている場合じゃない。あたし達はユーガ君の戦いを見届けなければならない。いつ、決着がつくか分からないこの戦いを。四人で村を出て共に旅をする仲間の戦いを。




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