償ってやる!
グリーデとの一悶着を終え、無事にコトーゼ家に帰ってくる事が出来た。親父さんやお袋さんは俺の無事を喜んでくれ、その日の夕飯は豪華な物が用意されていた。
一方、ザックスは結局、あの後グリーデに捕まり、半殺しにされたようで、今にも死にそうな状態で夕飯を食べていた。
さて、明日からはここの仕事に復帰しなければならない。普段よりも早く寝床に潜り込み、眠りにつく。
「お前、暇なの?」
サンデリオンの声だ。また龍達の空間へ来てしまっていた。
このところ、来る頻度が確実に増えてきている。サンデリオンにゼプランテ、意外なことにクアウォルトの姿もそこにあった。イアードは恐らく、個室とやらに行っているのだろう。
「来たくて来てる訳じゃない」
「あっそ、まあゆっくりしていけや」
さて、俺はクアウォルトの元へ駆け寄る。
「クアウォルト、昼間は力を貸してくれて助かった。これからもよろしく頼む」
しかし、クアウォルトはそっぽを向く。
「勘違いするな。あの時限りだ。もう人間に力は貸さん」
「クアウォルト……お前さんまだ十年前の事を気にしているのか?」
ゼプランテがクアウォルトに問い掛ける。ゼプランテの問いに対し、クアウォルトは目を見開いて答えた。
「当たり前だ。逆に聞くが、お前らは何故、再び人間に力を貸す気になった? 十年前の前任者に力を貸したのが原因で数多の国が滅びたのだぞ? また同じ罪を繰り返すのか!」
「レン・ヒュウガの事か?」
俺は口を挟む。
「そうか、お前はあのグリーデとかいう人間に話を聞いていたな」
「なあ、詳しく教えてくれないか? レンは何故、お前らの力を使ってたくさんの国を滅ぼしたんだ?」
龍達は口を閉じる。やはり駄目か。まあ、話したくないことなのなら仕方がない。そう思った矢先、ゼプランテが口を開く。
「わかった、話そう」
「ゼプランテ!」
クアウォルトがゼプランテに怒りの表情で詰め寄る。この間のイアードの時のように、喧嘩を始めたりしないだろうか。
「ユーガにはこの話を知ってもらう必要がある。ずっと黙っていても仕方がないのはお前も分かっているじゃろう?」
クアウォルトに詰め寄られても、ゼプランテは余裕の表情を見せている。やがて、クアウォルトはゼプランテから離れ、ため息をつく。
「もういい、好きにしろ」
「分かればよろしい。さて、話そうか。わし達の前任者のレン・ヒュウガの事を」
クアウォルトには悪いが、俺はレンがどういう人間か、知る必要がある。龍化を正しく使いこなすために。
「既に察していると思うが、レンも十年前、お前さんと同じ世界から来た転生者じゃ。そして、お前さんと同じくあの女神レクシアから魔王を食い止める使命を受け、わしらと契約し、この世界に降り立った」
魔王の存在がこの世界に知れ渡ったのも十年前だ。その魔王に対抗させるために急いで呼び寄せたのだろう。
「レンは最初こそ龍化の力を使い、人々を救って感謝される日々を送っていた。しかし、時間が経って、周囲にチヤホヤされるにつれ、レンは自分が普通の人間とは違う特別な存在であることを自覚し始めた。今思えば、この時辺りからわしらが力を貸すのをやめていれば悲劇は起こらなかったのかもしれん」
「力を貸していたって事は、レンの事を認めてはいたのか?」
ゼプランテは首を横に降り、否定する。
「認めてなどいない。だが、肉体を失い、魂だけの存在となったわしらにとって、この世界がレンによってどうなろうが正直、どうでもいいと当時は思っておったんじゃ。だから、わしらはただ黙って見ていた」
「……人間はきたねぇ生物だからな」
さっきまで黙っていたサンデリオンが小さく呟いた。
ゼプランテは話を続ける。
「そんなある日、あいつは龍化を使い、長い間拠点にしていた村を滅ぼした。……クアウォルトの龍法を使ってな」
「……」
クアウォルトは何も言わない。
「大した理由なんてなかった。ただ、奴は言っていた。『元の世界では出来なかった事をやりたくなって実行してみた』と。とだけ言っていた」
は? それが理由か? ゲームじゃねえんだぞ。
「その一件からすぐに、レンは人が変わったようにこの世界を蹂躙し始めた。人間の軍隊も動いたが、全て圧倒的な力で返り討ちにしていき、好き放題に暴れまわったんじゃ」
元の世界では普通の人間は犯罪を行わない。何故なら、警察という抑止力があるから。しかし、もし警察及びそれに準ずる組織を全て返り討ちに出来る力を持った奴がいたらどうなるか? そのような奴を止める方法はあるのか?
……とても考えつかない。
「やがて、メジュレアという国にて、あのグリーデという人間に敗れ去り、レンは捕まった。わしらは多数の死者が出たその戦いでようやく気付いた。この力を考え無しに貸してはいけない。その者の人間性を評価して考えるべきだとな。レンの死後、契約が解かれ、わしらの魂は再びあの女神の元へ舞い戻った。その十年後、転生の間に姿を現した死者がお前さんだった。とういうわけじゃ」
話が終わったのを確認し、俺は間を空けず、昼間にグリーデに言った事をそのまま龍達に向けて言った。
「俺はレンのような失敗はしない。この力を正しく使ってみせる」
「口だけは達者だな」
クアウォルトがこちらを見る。
「クアウォルト、レンがお前の力を使って村を滅ぼしたこと。俺がレンの代わって謝る。ごめんな」
頭を下げる。レンと同じ世界の人間として、責任をとるために。
「上辺だけの謝罪なんていらない。これ以上関わるな」
「お前がどう認識しようが構わない。謝りたいから謝ってるだけだ」
そして今、決めた。俺は息を吸って大声で叫ぶ。
「今ここにいない龍達! 聞いてくれ! 俺の名前はユーガ・サクマ! レンがお前らに対して犯した罪及びお前らが人間に犯した罪は俺が引き受けた! これから時間をかけて償ってやる! そして、いつか俺とも仲良くなってもらう! 分かったか! 俺はレンみたいに馬鹿な事に力は使わねえ!」
返事はない。しかし、この場にいる三匹は突然の大声に対し、とても驚いているようだった。
サンデリオンが前足で腹を抱え、笑い出した。
「ギャハハハハ! お前があいつの罪を代わりに償うって……こんな馬鹿な人間見たことねえぜ!」
相変わらずうるさい奴だ。サンデリオンの笑いに誘われたのか、空間の奥の方からも笑い声が近づいてきた。やがて、姿を現す。イアードだ。
「さすが我が認めた人間だ! とんでもないことを言ってのけてくれる!」
なんか恥ずかしくなってきた。
そんなことを思っていると、なんとあれだけ俺の事を毛嫌いしていたクアウォルトが顔を近づけてきた。
「……」
俺の目をじっと見つめる。目をそらす事なく見つめ返す。そして、呟いた。
「……信じていいんだな?」
「……ああ、任せろ」
返事をしてすぐに視界が霞んでいった。時間だ。また、今日もこの世界での生活が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます