水龍と樹龍
水龍に姿を変えた影響で、フレイムウルフ達が距離を取り出した。グリーデはこちらの様子に気づいたようだが、攻撃の手を緩めずフレイムウルフの群れを斬り続ける。
――一瞬で終わらせる。龍法を使うぞ。
――龍法? 何だっけそれ?
――あの女神に教えられただろう。我々龍族のみ持つ龍素を使って発動する事象の事だ。
要するに、人間が使う魔法の龍が使うバージョンだな。
――以前もイアードやサンデリオンの身体で発動していただろう。
――あの時な必死で無意識の内にやっていたというか……やり方が頭に入ってきたんだよ。よく分からないけど。
――なるほど、ならこの状況を打破出来る龍法は分かるだろう。
言われてみれば確かに分かる。誰かに教わった訳でもないのにどのような龍法が使えるか、どのように発動するのか。全て分かる。不思議な感覚だ。
――やってみろ、この状況を変える龍法を。
――ああ、任せろ。
俺はイメージする。ここにいる皆を守る最善の龍法を発動するために。イメージが終わり、俺は声に出す。
「水龍法・アクアドーム!!」
周りが一瞬にして、水に覆われた。どうやら、発動出来たようだ。
「クアウォルト! これは一体……」
――半径200メートルを龍法で作り出した水のドームで包み込んだ。心配するな。他の生物には影響はない。
クアウォルトの言う通り、グリーデや他の消火活動に取りかかっていた村人達の身体には、不思議なことに水は一滴も触れていない。周りに空気の膜のような物が張られている様で、呼吸するのに何ら影響は無いようだ。
――お前が敵と認識しているあの下賎な犬共は別だがな。
さっきまで元気に走り回っていたフレイムウルフ達が、目の前の水中で呼吸が出来ず、もがき苦しんでいる。そのもがきの甲斐もなく、フレイムウルフ達はぐったりと白目を向き、動かなくなった。
フレイムウルフ達が全て動かなくなったのを確認し、俺は龍法を解除する。アクアドームのお陰で木々に燃え移り続けていた炎を消火する事にも成功したようだ。龍法を解除するやいなや、ペラルが駆け寄って来た。
「やったじゃないユーガ君! あの状況から全てをひっくり返すなんて!」
「俺の力じゃない。全部この姿の持ち主のクアウォルトって奴のおかげだ。お礼はこいつに言ってくれ」
そして、自分の中のクアウォルトに語りかける。
――本当にありがとな、クアウォルト。俺を認めてくれて
――勘違いするな。今回だけと言っただろう。これからもお前に力を貸すなど言ってない。
クアウォルトのその言葉を最後に、姿が元に戻った。辺りを見渡す。いくつかの木々はアクアドームを発動前に燃えて失くなってしまっていだ。山火事自体は収めることは出来たが、既に焼けてしまった木々は元に戻らない。
「俺がもう少し早く来て、早くこの姿になっていればこの森の被害も抑えることが出来たんだろうな」
「そんなこと気にしたって仕方がないわ。人間の死傷者が出なかっただけでも全然良かったわよ」
ペラルはそう言うが、この森の惨状の前ではあまり気分が晴れない。そんな時またも、声が響いてきた。
――わしの力を貸してやろうか?
知らない声だ。恐らく龍達のうちの一匹だろう。
――その力で何が出来るんだ?
――この森を復活させることなど容易い。
――そんな力をどうして初めて話す俺に貸してくれるんだ?
――お前さんは植物を火の手から守った。そして、今は失った木々のことを気にかけとる。わしはそんな奴に悪い奴はいないと思っとる。理由なんてそれで十分じゃ。
――そうか、ありがとう。名前は?
――わしの名は樹龍ゼプランテ。ほれ、力を貸すぞ。
俺の姿が黒いオーラに包まれ変わっていく。身体が深い緑の鱗に覆われて、翼も生える。身体中の所々から、植物の蔦のような物が垂れ下がっている。これがゼプランテの姿か。
「姿がどんどん変わっていって大変ね。今度は何するのよ」
「まあ見とけ」
俺は地面に前足をつける。龍法のやり方はもう既に頭に入っている。
「樹龍法・グロースツリー」
すると、何もない地面からいきなり芽が飛び出る。その芽は目にも止まらないとてつもない勢いで成長していき、やがて、大きな木へと成長した。周りでも同じ様にして、どんどん木が出来上がっていく。
「すごい、森が元に戻っていく……」
「こんなことまで出来るのか……」
村人達が驚きの声をあげていく。本当に龍達の力は計り知れない。
「さっきの水のドームといい、やっぱとんでもねえ力を持ってんな」
グリーデがこちらに近づいてくる。そして剣を抜いた。何をする気だこの人!
「村の皆や森を救ったことは感謝する。だがな、やっぱそんな力を持つ奴を自由にはしておけないだろ」
「ちょっとおじ様!」
ペラルがグリーデに口を挟むが、当の本人は意に介していない。
「俺はこの世界を思って言ってるんだ。お前がレン・ヒュウガと同じくその力に溺れて道を誤る可能性がある限り、お前は生かしておけない」
グリーデは剣先をこちらに向ける。俺は姿を元に戻し、グリーデに近づいた。
「何だコラ」
「グリーデさん。これがラストチャンスでいい。俺の話を聞いてくれないか」
沈黙が訪れる。俺とグリーデは互いに見つめ合う。やがて、グリーデは剣を鞘に収め、沈黙を破った。
「いいだろう。お前の言い分を聞いてやる」
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