水の覚醒

 その夜、俺は再び、龍達の空間へと来ていた。今回はイアードの姿しか見当たらない。


「サンデリオンはいないのか?」

「あいつは今、自分の個室で眠っているところだ。起こすか?」

「いや、大丈夫だ」


 この空間、龍それぞれに個室なんて付いていたのか。まるでシェアハウスだ


「……あの人間に10年前の話を聞いたみたいだな」

「……悪い。勝手な事して」

「気にするな、そんなことよりどうするのだ? 期限は着々と迫っているのだろう?」


 そう、俺はグリーデに認められる方法を考えなければならない。しかし、自分の頭じゃどうすればいいのか分からないので、こうして、イアードに相談に来たのだ。


「どうすればいいと思う?」

「そんなこと我にも分からん。あの男は無茶苦茶にも程がある」


 それは俺も同感だ。


「そんなに難しく考えることではないと思うがな、要はお前が前任者のレンと違うところをあいつに見せつけてやればいい」

「だから、それをどうすればいいかが分からないんだよ」

「龍化の使い道をしっかり考えろ」


 それだけ言うと、イアードは何処かへと向かっていった。自分の個室にでも向かったのだろうか。


 それから、次の日の午前中にまたも筋トレに付き合わされた。やはり、慣れるものじゃない。ザックスのようにサボりたくなってくる。


「休憩だ。それまで休ませてやる」


 ふう、きついきつい。この休憩時間が一番の楽しみだ。しかし、この平和な時間はすぐに崩れ去る事になる。突然、玄関の扉が激しく叩かれる音が聞こえたのだ。


「大変だグリーデのオッサン! 山火事だ!」


 ザックスの声だ。俺より早くグリーデが外への扉を開ける。


「山火事だと? 原因は何だ!」

「変な犬の魔物が炎を吐きまくっているのが原因だ! 数も多いし、火が広がるしで大変なんだ!」

「……フレイムウルフだな。この辺りには生息していないはずだが……これも魔王の影響か?」


 確かに、遠くの方で煙が見える。グリーデはすぐさま家を飛び出した。


「俺も行きます!」

「好きにしろ」


 よし、許可がもらえた。


「ユーガ、俺は火を消す為の人手を集めてくる。頼んだぜ」

「ああ、行ってくる!」


 


 山火事の現場に到着し。状況を確認する。辺りは火に包まれ、煙も上がっている。既に、火を消すための人員が何人か到着しており、水の魔法を使った消火活動に取りかかっていた。

 そんな状況の中、燃え上がる炎の中を我が物顔で走っている生物がいた。赤色の体毛を持ったその生物はこちらを見るなり、口から炎を吐き出した。


「邪魔だ」


 グリーデが俺を押し退け、炎を一刀両断する。


「こいつらは俺がやるからお前は龍化なりなんなり使って他の連中を守れ」

「この数相手に無茶だ!」

「俺を誰だと思ってんだコラ。大剣豪グリーデ様だぞ」


 グリーデは重そうな両手剣を軽々と振り回し、フレイムウルフの群れへと突っ込んでいく。あの様子なら俺の心配なんて必要なかったな。

 

「うわあっ! こっちに来たぞ!」


 悲鳴が上がる。住民達に向かって複数のフレイムウルフが走っていくのが見えた。


――――――力を貸してくれ、イアード


 俺は龍化を発動し、黒いオーラに包まれる。俺の身体はみるみる変わり、赤き龍へと変貌した。

 以前より、サイズが小さくなっていた。前回は一戸建ての家よりも遥かに大きな姿に変身したが、今回は精々五メートルほどだ。


――――――こんな状況であんな大型のサイズに化けたら、他の人間を踏み潰す危険性があるからな。次からはお前が調整しろ



 なるほど、状況に合わせたサイズの調整まで出来るのか。俺は消火中の住民達の前に立ちはだかる。フレイムウルフは俺に向けて炎を吐き出したが、ちっとも熱くない。さすがは炎龍の身体だ。


「すまん、助かった! ドラゴンの坊主!」


 お礼を言われ、振り返る。どこかで見た顔だ。思い出した。以前、村長の家での会議の時、俺の能力に恐れ、敵対心を剥き出しにしていた男の一人だ。別に恨んじゃいない。言い分は理解してはいるのだから。

 俺に向かって、複数のフレイムウルフが飛び掛かる。俺は尻尾を振り回し、撃墜する。フレイムウルフの数はグリーデのおかげで着々と数が減っているが、消火の方はとても間に合わない。このままでは、人間以外の野生の動物にも影響を及ぼしてしまうだろう。俺は一か八かの策に出た。


――――――クアウォルト、聞こえているだろ? 貸してくれないか?


 心の中でクアウォルトに語りかけてみる。反応がない。


――――――頼む! お前だけが頼りなんだ!


 クアウォルトに意識を反らしてしまったのが仇になった。複数のフレイムウルフが俺の足に噛み付いてくる。


「くそ、邪魔だ! 離れろ!」

「ユーガ君から離れなさい! アクアストリーム!」


 消火活動に参加していたのであろうペラルが足に噛みついているフレイムウルフに向けて、水の魔法で攻撃した。たまらず、フレイムウルフは口を離し、その場に倒れる。またも助けられてしまったな。


「悪い、助かった!」

「油断しないで! まだまだ来るわよ!」


 炎はどんどん木々に燃え移って行く。クアウォルトの力さえあればこの状況を打破出来ると言うのに。もう一度クアウォルトに語りかける。


――――――お願いだ。力を貸してくれ! このままだと、多くの命が失われる!


 返事はない。


――――――俺の事なんか気に入らなくても構わない! お願いだ! 今だけでも頼む!


 返事はない。多数のフレイムドッグが俺の身体に噛みつくが、今は気にしていられない


「俺に守る力を貸してくれええぇぇ!」



 身体が再び、黒いオーラに包まれる。俺は姿を変え、青い鱗に蛇のような細長い身体へと姿を変えていく。


――――――ありがとな! クアウォルト! 

――――――今回だけだ人間。この状況を打破するぞ。

 



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