水龍クアウォルト

 気が付くと、俺は龍達の空間へと来ていた。そこには相も変わらず、イアードとサンデリオンの姿があった。サンデリオンがこちらに気づくなり、近付いてくる


「よう、見てたぜ。大変だったな」

「見てたのか」

「当たり前だ。こんな退屈なとこなんかより外はよっぽどいい」


 どうやら、ここの龍達は基本的にこの空間から外に出ることはできないが、俺の体を通して、外の世界を見ることは出来る。


「お前があの大男に怯えている所から、あの人間の小娘と共に暮らす事になると思い込んでちょっと慌てている所までしっかり見えていたぞ」

「ぎゃははは! 見てた見てた! あん時のお前、すっげーキモかったぜ!」


 サンデリオンが大きな口を開け、爆笑する。しまった、心の中までもこいつらに丸聞こえってことか。これからは警戒せねば。


「静かにしろサンデリオン。耳障りだ」


聞き慣れない声が聞こえた。


「やはり、この人間には大した物は感じない。実に目障りだ。お前達はこの人間の何を認めたのだ?」


 暗闇の奥の方から、声の主が姿を現した。体はイアードやサンデリオンに比べると細長く、蛇のような体型をしており、深い青色の鱗に覆われていた。前足は小さめで、後ろ足は、見たところ存在しない。


「何のようだクアウォルト。引っ込んでいろ」


イアードがクアウォルトと呼ばれた青い龍を睨み付ける。


「お前達がさっきから騒々しかったから大人しくしろと言いに来ただけだ。そこの人間もさっさと消えろ」

「まあ、待てよ」


俺は青い龍に近付く。それにしてもとても長い体だ。頭から尻尾までの長さだけなら、イアードやサンデリオンなど比べ物にならない。


「クアウォルトって言ったか? 初めましてだな。ユーガ・サクマだ。よろしくな」

「気安く話しかけるな人間。そこの2匹を飼い慣らしたからといって図に乗るな」

「図になんて乗ってない。どうにか仲良く出来ないか?」

「口を閉じろ」


 やはり、一筋縄では行かないか。そもそも、龍達は女神レクシアによって強制的に俺と契約させられた形となっている。このような不満が出るのも当然かもしれない。


「ほっとけよユーガ。まともに会話すら成立出来なさそうじゃねえかよ」


 俺は仕方なく、クアウォルトから距離をとる。グリーデといい、まともに会話すらしてくれない奴とはどう関わればいいのだろうか。グリーデ……そうだ、龍達に聞きたい事があったんだった。


「なあイアードにサンデリオン。お前ら、あのグリーデってオッサンの事見覚えあるか?」


イアードが答えた。


「ある。あまり思い出したくはないがな」

「それって、前に言っていた俺の前任者の体を通してってことか?


 前任者については、この2匹にとってはタブーだ。しかし、俺には知る義務がある。


「その通りだ。奴は10年前」

「口を閉じろイアード」


突然、イアードの体を透明な物体が包み込む。物体に包まれたイアードは息苦しそうに悶絶する。これはどうやら水の塊のようだ。何故こんな所に水が?


「大丈夫かイアード!」

「クアウォルト! 何やってんだやめろ!」


 サンデリオンがクアウォルトに怒鳴り付ける。どうやら、クアウォルトの能力らしい。


「それ以上あの人間の話をするな。思い出すだけでも不愉快だ」


 クアウォルトは攻撃をやめる気配はない。しかし、水球に包まれたイアードの体中から炎が吹き出した。水の中でも燃え盛るとはなんて火力だ。炎は水を蒸発させ、イアードを解放させる。


「クアウォルト……! 貴様よくもやってくれたな」


怒りのせいか、イアードの口から炎が漏れる。


「丁度いい。人間に力を貸すお前も目障りだと思っていた所だ」


クアウォルトも戦闘体勢をとる。


「ユーガ、駄目だ。とても話なんて出来る状況じゃねえよ。そろそろ時間見てえだし、また今度来いや」


 サンデリオンはそう言うと、制止するためか、イアードとクアウォルトの元へ走っていく。そして、目が霞んでいく。目覚める時間のようだ。




目が覚めて、体を起こす。ベッドを見るが、グリーデの姿はそこにはなかった。もうとっくに起きているのだろう。部屋を出て、1階に向かう。居間に着くと、急にパンが飛んできた。キャッチ成功。


「朝飯だ。食え」

「あ、ありがとうございます」


 なんだかんだ言って、食事はさせてもらえている。コトーゼ家と比べると質素だが、仕方がないだろう。朝食を済ませ、俺はグリーデに尋ねた。


「何をすれば俺は助かるんですかね」

「普通に過ごしてろ」


こんな状況で普通に過ごせるか! こっちは命掛かってんだぞ!


「することねえなら、俺に付き合え」

「何するんですか?」

「鍛練だ。まずは、腕立て伏せ1000回やってみろ。その後、腹筋もな」


……一週間経つ前に過労で死ぬんじゃないだろうか。こうして、地獄の一週間が幕を明けた。

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