横暴な男グリーデ
グリーデの無茶な提案にその場にいた一同が驚きの表情を見せた。
「何を言ってやがるんだグリーデ! 今のお前とユーガを一緒にするのは危険すぎる!」
ザックスの親父さんが立ち上がり、怒鳴り付ける。
「ベックス、お前もこの餓鬼のことを相当買っているみたいだがこいつの力は本来なら今すぐに消すべき力なんだ。さもなくば悲劇は繰り返される」
ベックスとはザックスの親父さんの名前だろうか。初めて知った。
「それなのに俺はお前やリオーネのこいつに対する信頼に免じて一週間も猶予をやってやるんだ。心配すんな。認めるに値する奴だと判断したら解放してやるよ」
……横暴だ。俺が反論しようにも、先程の攻撃がまた来るかもしないことを考えると迂闊に喋れない。俺が黙っていると、代わりにリオーネが口を開いた。
「そんな事、とても賛成できないわ。そんなのユーガに対する最大の無礼よ」
「あのなリオーネ。何度も言うが、龍化の能力がこいつに宿ってなおかつニホン出身なのが問題なんだ。なにもこいつの人間性自体は疑ってはいねえよ」
どうやら、龍化や日本に相当強い敵対心を持っているようだ。これじゃそう簡単に自分の意志をねじ曲げたりしないだろう。
「殺すにせよ、最終日までは待ってやる。その日までは精々、普通にうちで過ごしてりゃいい」
「……龍化や日本に何の恨みがあるか知らないが、引き受けてやろうじゃないですか」
こうなったら認めさせるしかない。これ以上話を続けていても埒が明かなそうた。
「ユーガ! こんな提案に乗ることなんてないわよ!」
リオーネが庇ってくれるが、俺は首を振った。
「大丈夫、絶対にこの人に俺の事を認めさせてやる」
「ほお、度胸は中々のもんじゃねえか」
グリーデが笑う。これからこの人と一週間も過ごさなければならないのか。ん? この人と? ということは、グリーデの家族であるリオーネとも一緒に暮らすことになるのだろうか? それはその、あれだ。問題だ。
「決まりだな、リオーネ。お前はこれから一週間、このネルモンド家で世話になれ。迷惑かけるんじゃねえぞ」
「……分かったわよ」
ああ、うん……そうだよな。グリーデは俺の耳元に向けて、小さくこう言った。
「俺の愛娘と一つ屋根の下でなんて居させるわけねえだろ糞餓鬼が。百年早いわ。いや一生待ってもそんな機会来ねえわ」
何で俺の考えてたこと分かるんだよ。エスパーかこのオッサン。
俺の同意によりグリーデの案は実行される。会議は終わり、ザックス達に見送られながら俺はセルシュ家へと無理やり連れてこられた。
「ほら着いたぞ。ここがお前の監獄となる所だ」
ペラルの家ほど大きくはないが、立派な2階建ての一軒家だ。それにしても、自分の家を監獄呼ばわりする人なんて初めて見た。俺は家の中へ無理やり連行される。居間に着くなり、グリーデは自分の懐をまさぐった。
「今日はもう遅いな……これでも食え」
そう言いながら、グリーデはパンをこちらに投げ付けてきた。俺は間一髪で反応し、受け取る事に成功する。床に落とそうものなら『うちの食料を床に落とすとは舐めた野郎だ。今すぐ殺してやる』みたいなこと言ってきそうだ。
「受け取ったか。もし落としていたらぶった斬ってやったんだがなぁ」
マジかこのオッサン。これは片時も気が抜けない。俺は手を合わせ、今までに無いくらい心に込めて食事の挨拶をする。こういう所から誠実さを見せなければ。
「……全ての命に感謝して頂きます」
「飯食うぐらいでいちいちなげーんだよぶった斬るぞ」
「あっはい!すみません!」
いくらなんでも理不尽すぎではないだろうか。この家に入って10分もせずに二回もぶった斬る宣言されてしまった。
それから、俺は風呂を借りる。ザックスから借りた寝間着に着替えて居間に戻る。
「風呂上がりましたよ」
「そうか、早速お前を寝床に連れてってやる」
グリーデは2階へと俺を連れていく。階段上がって奥の方の部屋の扉を開けた。部屋の中にはベッドが二つあった。夫婦の部屋だろうか。
「これから一週間、お前には俺と一緒にここで寝てもらう」
寝る時まで一緒なのか。心が休まる暇がない。
「いいか、ベッドは使うんじゃねえぞ。床で寝ろよ」
まあ、奥さんのベッドを使うわけには行かないだろうしそうなるよな。
「そういえば、奥さんはどちらにいらっしゃるんですか?」
「……お前に答える義理はない。今日はもう寝ろ、俺も寝る」
それだけ言ってグリーデは片方のベッドに潜り込む。もしかして聞かれたくない事を聞いてしまっただろうか。
「すみませんでした」
一言謝っておいた。グリーデからの返事は無かった。俺は床に寝転んで目を閉じる。今日も色々あって疲れた。退院早々、こんな事に巻き込まれるなんて思ってなかった。
やがて、眠気に襲われ、気絶するように眠りに着いた。
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