恐怖の会議
「早速だがユーガ君。君には話してもらわなければならない。君の力について」
会議が始まり、村長が早速俺に説明を促してくる。さて、どこからどこまで話すべきだろうか。
「俺の能力は龍化というドラゴンに変身出来る能力です。皆さん、龍人ってご存じですか?」
ひとまず、皆に龍人という概念が理解されているのかを聞いてみる。村長の隣に座っていた金髪の女性が手をあげる。
「聞いたことがありますわ。遥か昔に存在していたという龍と契約し、その力を使役することが出来るようになった人間ですわね」
「はい、それで合ってます。えーっと……」
俺はこの女性の名前を知らなかった。そもそも、俺はこの村に来て日が浅い。この場にいる村人なんてほとんど初対面なのだ。
「申し遅れましたユーガ君。私はベルティナ・ネルモンド。夫から話は聞いていますわ。以後お見知りおきを」
「こちらこそよろしくお願いします」
ネルモンド……ということはペラルのお袋さんで、村長の妻にあたる人物だろうか。とても19歳の子供がいるとは思えないほど若々しい姿をしていた。
「龍人……本当にいたのか……?」
「架空の存在だと思っていたが……」
「やはりただの人間じゃなかったんだな……生かしておいて大丈夫なのか?」
知らない顔の男達が小さい声で話すのが聞こえる。この人達が俺も化け物扱いしてるって連中か?
「話を続けます。俺は龍人となった後、世界を脅かす魔王討伐の使命を背負い故郷を離れ、長旅をしてこの地にたどり着いたんです。決して皆さんに危害を加えに来た魔物の手先ではありません」
よくよく考えて見れば、これでもう話すことは無くなったのではないか? この世界における俺の来歴なんてこのぐらいしか話せることはない。女神レクシアの話でもしてみた方が良かっただろうか。いや、そんなこと信じてもらえないか。
そんなことを考えていると、こちらをずっと睨み続けていたグリーデが聞いてきた。
「お前の故郷はどこだ? 言ってみろ」
まずい質問だ。『こことは別の世界の日本という所から来ました』なんて言っても信じてもらえる筈がない。
「ここからとても遠い所です。さあ、次の話題に移りましょう」
「ちゃんと答えろ。ぶった斬るぞ」
ダメだ流せない。グリーデが背負っている両手剣の柄に手をかける。出鱈目を言おうにも、俺はこの世界の国の名前なんて知らない。
「俺もユーガの出身地聞いてなかったな。教えてくれよ」
ザックスも興味が湧いたようだ。しょうがない。一か八かだ。
「……日本です」
「ニホン……?」
日本という言葉を聞き、グリーデの表情が変わる。
「聞いたことねえ国だなあ。この大陸じゃねえのかな」
「余程遠い所から来たんだねえ」
コトーゼ夫婦が頭を傾げる。他の皆の反応を伺うに誰一人知らないようだ。当たり前だが。グリーデが柄から手を離し、口を開いた。
「……ふん、ニホンか。名前だけなら聞いたことがある。行ったことまではないがな」
何だと!? このおっさん、日本なんてどこで聞いたんだ!? ま、待て。落ち着こう。とにかくこれで俺が話すことは何もない。
「グリーデが聞いたことあるんだったら、まあ、あるんだろうな。隠そうとせず言えばよかったじゃねえか」
ザックスの親父さんが言った。
「とにかく、ユーガは遠いニホンという国から旅をしてきた龍人ってことだ。確かに龍人は珍しいし、初めて見た未知の力に怯えるのは分かる。だが、ユーガはこの村を守ってくれた。魔物がそんなことをすると思っているのか?」
親父さんは立ち上がり、言ってくれた。
「恩人を証拠もなく疑うなんてそいつはもう魔物なんかよりも質が悪い。そう思うだろう?」
「その通りよ。少なくとも、村を守らずに真っ先に避難していた人がケチ付ける事じゃないわ」
ペラルも便乗して意見を述べてくれた。さっきまで、俺を怪しんでいた村人は一斉に口を閉じる。……ただ一人を除いて。
「いや、この餓鬼は今すぐに殺すべきだ」
グリーデだ。このオッサン、相当しつこい。
「おい、グリーデのおっさん。ユーガを魔物の手先だって疑うんだったら証拠でも出してみろよ」
ザックスが席を立ち、グリーデに文句を言う。
「魔物の手先だろうがなかろうがどうでもいい。そこは大した問題じゃない。龍化を使用して出身地はニホン……殺す理由なんてそれだけで十分だ」
言ってることが無茶苦茶だ。日本出身が何だってんだよ。
「お前も
さっきから好き勝手言ってくれる。俺があんたに何をしたって言うんだ? そこまで言われる筋合いなんてない。俺は怒りに任せてテーブルを強く叩きながら立ち上がる。
「あんたさっきからいい加減に……!」
――――――――――
一瞬、何が起きたのか分からなかった。気づいたら、俺の目の前にはリオーネが立ちはだかり、グリーデの両手剣による斬撃を
防いでいた。
「いい加減にしてよ……! お父さん!」
「退けリオーネ。そいつの力は危険だ。今のうちに殺さなければお前にも災いが降りかかる可能性がある」
やっと理解した。俺はまたリオーネに助けてもらったのだ。リオーネがいなければ俺は何回死んでいるのだろうか。ていうかこのオッサン、こんな人前でなんてことをしているんだ!
「グリーデ! 武器をしまえ! ―こんな所で流血沙汰を起こそうとするなど許されることではないぞ!」
村長がグリーデを睨み、怒気を込めた声で言った。周りの人々の状況は様々だ。ベルティナさんはグリーデに手の平を向けていた。魔法か何か唱えてグリーデを止めようとしていたのだろうか。他の人々は驚いて席を転げ落ちていたり、それを通りこして気絶している人もいた。
「グリーデ。うちの店員に何かあったらいくらお前でもただじゃ済まさねえぞ」
ザックスの親父さんもグリーデを睨み付ける。
「……おい餓鬼。お前は俺の知らない所で相当信頼を得ていたみたいだな」
グリーデは剣を戻し、俺の顔を除き込む。もうやだ、今すぐに帰りたい。そんなことを思っているとグリーデはとんでもないことを提案してきた。
「……いいだろう、チャンスをやる。これから1週間、俺はお前を俺ん家に泊めて監視する。その期間が終わるまでに俺がお前を無害な存在だと認めたらお前を生かしておいてやろう」
……は?
開いた口が塞がらなかった。
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