ユーガの今後

 あれから数日後、俺は無事に退院することが出来てコトーゼ武器屋に帰ってくることが出来た。帰ってすぐにザックスとお袋さんが祝いの声をかけてくれた。


「退院したか! 良かった良かった!」

「本当に無事で良かったよ」


 ザックスは笑顔で出迎えてくれて。お袋さんに至っては涙を流す。


「心配かけてすみませんでした」


 俺はお袋さんに頭を下げる。


「ところで親父さんはどちらにいらっしゃるんですか?」


 さっきから姿が見当たらないのだ。何処にいったのだろう。


「親父なら、ついさっき村長に呼び出されて出掛けていったぜ」

「まああの人ならすぐに帰ってくるよ」


 お袋さんがそう言った瞬間、親父さんは帰ってきた。


「あらあんた。おかえりなさい。ユーガ君が無事に退院できたわよ」


 お袋さんの言葉に反応し、親父さんは俺を見る。しかし、その顔は明るいとは言えなかった。


「ユーガか……退院おめでとう。しかし急な話で済まないが、お前には来てほしい所がある」


 来てほしい所?


「おい親父、退院早々何処に行けってんだよ」


 俺が聞く前にザックスが質問した。


「村長の家だ。お前達にも来てもらわないといけないな」


 親父さんはザックスとお袋さんにも来るように促した。俺は親父さんに質問した。


「一体、そこに行って何をするんですか?」

「……お前のあの力について、村の大人達全員に話してもらう。それから、これからのお前の扱いをどうするか決めるのだそうだ」


 ……なるほど、そういうことか。確かにドラゴンに化ける人間なんてそのまま放置するわけにはいかないのだろう。


「……どういう事だよ親父。まさか皆はユーガの事を魔物の手先とでも思っているのかよ」


 ザックスが親父さんに詰め寄った。


「そんなこと、わしに聞くな」


  親父さんはザックスを押し退け、俺と向き合う


「わしはお前に感謝している。しかし、お前のことを良く思っていない奴も一定数いやがるんだ。ザックスの言う通り、魔物の手先だと思い込んでいる奴もいるだろう。ここ何年かは物騒だからな」


  仕方がないことかもしれない。レクシアから聞いた話では、魔王の手先を名乗る魔物が世界中に出没しているらしい。


「でもな、わしは信じとるよ。お前は魔物の手先なんかじゃないとな。でなきゃ命をはって村を守るはずがないだろう?」

「もちろん、あたしも信じてるよ」


 親父さんとお袋さんもそう言ってくれた。


「早速で本当に済まない。今すぐ村長の家に行くぞ」


――――――――――――


 村長の家へ向かっている最中、ザックスは俺に話しかけてきた。


「大体ユーガがいなければ、今頃この村は失くなってたかもしれねえってのに魔物って疑いようがねえだろうが、なあ?」


 俺は、ザックスに聞いてみる。


「ザックスは俺の事怖くないのか?」

「怖いわけねえだろ、ドラゴンに化けようが、お前はお前じゃねえか」


 とても嘘をついているようには見えない。どうやら愚問だったようだ。

 やがて俺達は村長の家にたどり着き、前回訪れた時と同じ使用人に案内された。案内された部屋はとても広く、真ん中には大きなテーブルが置かれていた。既に何人かが部屋に集まって、テーブルの周りに用意された椅子に座っている。その中には、リオーネやペラル、村長の姿もあった。リオーネとペラルは俺の姿を見ると小さい声で『頑張って』と励ましてくれた。俺は親指を立てて席に着く。

 俺が席に着いてから20分ほどが経過する。


「まだ全員集まらないのか?」


 親父さんが村長に声をかける。


「待ってくれ、もうそろそろあの人も来るだろう」


 あの人?誰の事だろう?


「あの人って……まさか、グリーデの奴が来るんじゃねえだろうな?」


  ザックスの親父さんは冷や汗を垂らした。

 次の瞬間、部屋の扉が乱暴に開かれる。扉の方に目をやると、頬に古傷をつけ、背中には大きな両手剣を背負った見るからにただ者じゃない雰囲気を纏った男がいた。


「やっぱこの村は俺が居ないと駄目だな。王都に向かう仕事なんか引き受けるべきじゃなかったわ」


 男はズカズカと入り込んできて席に着いた。


「来てくれたかグリーデ。わざわざ王都から呼び出してしまって済まないな」


 村長が男に声をかける。


「別に、大丈夫だ」


 グリーデと呼ばれた男は俺を見るなり、睨み付けてくる。


「この餓鬼が例の化け物か?  とても龍に化けるとは思えねえな」


 初対面で人の事を化け物扱いする奴なんて初めて見た。


「おい餓鬼。少しでも本性を現してみろ。すぐに叩き斬ってやるからな?」


 物凄い威圧だ。こええよ、今すぐ帰りたい。俺は左隣に座っていたザックスの親父さんに質問する。


「……親父さん。あの男は誰なんですか?」

「あいつの名はグリーデ・セルシュ。ここいらでは有名な剣豪だ」


 へえ、剣豪ねぇ……セルシュ? 聞き覚えがあるような。


「そして何を隠そう、リオーネちゃんの父親だ」

「えっ、マジですか!?」


 この厳ついおっさんとリオーネが親子?全く似ていないじゃないか! 離れた席のリオーネに目をやる。リオーネは頭を抱えながらこちらを見て頷く。どうやら本当らしい。


「それでは、全員揃ったところで、会議を始める。出来るだけ静粛にするように」


 会議が始まってもグリーデという男はこちらを睨み付けている。俺は無事に帰れるのだろうか。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る