炎龍と雷龍

 どこだここは? 以前にも似たようなことがあったような気がする。しかし、転生の間とは全く違う場所だと言い切れる。あそこは確か、見渡す限り真っ白な世界だったが、今いるのはどこまでも真っ暗な世界だ。結局、俺は親玉を倒してからどうなったんだ? まさかまた死んじゃったんじゃないだろうな。


「ここは我らの空間だ。お前はまだ死んではいない」


 恐ろしく威圧感のある声が聞こえた。さっき頭に響いてきた声と一緒だ。


「つーか死んでもらっても困るわ。せっかく俺らの姿を貸してやったってのによ」


 二つ目の声が聞こえる。金色の龍になる直前に聞こえた物と一緒だ。


「誰だよ一体、姿を見せてくれ」

「いいだろう」


 突如、上から二つの巨大な物体が落ちてくる。俺は驚愕のあまり腰を抜かした。


「……あ! お前らは!」


 落ちてきた物体の正体は二匹の龍だった。片方は赤色の鱗に覆われた奴と、もう片方は黄金の鱗に包まれている四足歩行の奴だった。先ほどの戦いで俺がなっていた姿と同じものだ。


「まともに話すのは初めてだな。我の名は炎龍イアード」


 赤い龍の名乗りに乗じて、黄金の龍も名乗る。


「俺は雷龍サンデリオン、よろしく頼むな」


 俺は二匹の龍を見て混乱する。聞きたいことは山ほどあるが、整理し切れない。ひとまず、思いついた質問をしてみた。


「この異世界に来て間もなく、俺は森でデーモングリズリーに襲われたのは知ってるか?」

「そんなこともあったな」


  イアードが目線をそらす。こっち向けこっち。


「あの時俺は龍化で対応しようとしたけど、お前は力を貸してくれなかった。どうしてだ? やり方は間違ってなかったはずだよな?」

「当たり前だろ、そん時はお前みたいな人間なんてさっさとくたばれって思ってたんだしさ」


 サンデリオンがバッサリと言ってくる。なんて奴らだ。


「じゃあ、どうして転生の間で練習した時は力を貸してくれたんだよ?」

「あの女神の前だったからだ。あいつの前で力を貸さないのは………その、色々とまずい」


 レクシアのことか。もしイアードがあの人の前で力を貸さず、あの人の機嫌を損ねていたらどうなっていたのだろうか。


「あの女神によって俺らは無理やりお前と契約させられた訳なんだけどよ、その契約は龍人側が死んだら無くなるんだよな。だったら、死ぬまでほっとこーぜってなったんだよ。もう人間に利用されるのは御免だからな」


 龍人とは、龍と契約することで、その龍の姿と能力を自在に使用できるようになった人間のことだ。俺はサンデリオンの言う通り、この世界で生き返る際にレクシアによって龍と契約を結び、龍人となってこの世界に送り出されたのた。通常、龍人は一匹の龍としか契約出来ないようなのだが、俺の場合は特例らしく、一度に複数の龍と契約させられたようだ。


「そんなに人間が嫌いなら、なんであんな状態から助けてくれたんだ?」


 俺が尋ねると二匹は顔を合わせ、再びこちらを向き、言った。


「お前を認めたからだ。少なくとも我ら2匹はな」

「……俺を?」

「お前は前任者とは違う。自分のためだけじゃなく、出会って間もないあの村の人間達を自分の命の危険を顧みず助けようとしていた。普通の人間に出来ることではない」


 そこまで言われるとなんか照れ臭い。あの時はただ、身体勝手に動いただけなのだが。


「今、前任者って言ったか? 俺の前にもお前達と契約して龍人になった奴がいたのか?」

「……忘れろ。あいつの話はしたくない」


 イアードの声が荒くなった。どうやら、あまり踏み込まない方がいいらしい。


「……悪いな、嫌なこと思い出させて。それとあと一個言っておきたい」


 俺は頭を下げる。


「何だよ?」

「あの村を救うために俺なんかに力を貸してくれてありがとう」


 イアードとサンデリオンは何も言わず、俺を見ていた。すると、突然眼が霞み、意識が少しずつ薄れていく。


「……時間のようだな、他の龍達も時が経てばお前を認めるだろう。また機会があればここに来い」


 薄れ行く意識の中、イアードのその言葉だけが聞こえる。




 気がつくと、俺は見知らぬ天井を見つめていた。上体を起こし、窓の外を見る。窓の外からは眩しい日光が差し込んでいた。

 どうやら、俺は病院に運ばれたらしい。ベッドのそはの椅子でリオーネが座りながら眠っていた。リオーネだけではなく、ザックスとペラルも、それぞれ椅子に座って眠っている。


「……ユーガ!?  目が覚めたのね!?」


 リオーネが目を覚まし、俺に声をかけた。


「ああ、心配かけて悪いな。リオーネも足の傷は大丈夫なのか?」

「ええ、まだ少し痛むけど後遺症にはならないみたい。それより、あなたが無事でよかったわ」

「リオーネも無事でよかったよ」


 俺は笑ってそう答える。


「ありがとうね、ユーガ」

「何がだ?  あの親玉を倒したことか?」

「それもあるけど、あの時私を庇ってくれたじゃない。本当にありがとう」


 リオーネに笑顔で感謝を伝えられる。凛々しい顔付きから出たその笑顔に思わず見惚れてしまった。

 そういえば、俺はあの時胸に大ケガを負ったが、その傷はどうなったのだろうか。胸元を見るが、傷は全く見当たらなかった。


「あなたがドラゴンから元の姿に戻った時、何故かは知らないけど傷は綺麗に塞がっていたの」

「……そうか」


 これも龍の力なのだろうか。

 そんなことを思っていると、近くで寝ていたザックスとペラルが目を覚ます。


「うおおおおおっっ! ユーガ! 無事だったか! お前すごかったぜぇぇ!!」


 ザックスが号泣し、鼻水を垂らしながら抱きついてくる。


「本当に無事で良かったわユーガ君! 結構かっこよかったわよ!」


 ペラルがウインクをしながらそう言ってくる。俺はこの世界でなんて恵まれた友人を持つことが出来たのだろう。俺はただただ、そんなことを思っていた。

 





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