龍化
――リオーネ――
グオオオォォォッ!
巨大なドラゴンと化したユーガに向かい、巨大なデーモングリズリーは耳をつんざく咆哮をあげる。その咆哮に反応し、一匹のデーモングリズリーが走り出し、跳躍した。
そして、ユーガの顔面に向け、噛み付こうと牙を剥いた。
「危ない!」
私は叫んだ。しかし、ユーガは目を見開き、巨大な右手で眼前に迫ったデーモングリズリーを叩き飛ばす。さらに、いつの間にかユーガを取り囲んでいたデーモングリズリー達が一斉にユーガに向かって飛びかかった。
すると、ユーガの体中から燃え盛る炎が放出された。デーモングリズリー達は、全身を焼かれ、動かなくなる。
「おいおい、何なんだあいつは!? 本当にあのドラゴンはユーガなのか!?」
ペラルの治療を受け終わったザックスが状況を読み込めずに冷や汗を垂らす。
「わからねぇ……だが、デーモングリズリー共はどういうわけだかわし達に目もくれずにあいつに襲いかかっていってる。あいつがいなければどうなっていたか……」
ザックスのお父さんがそう言いつつ、立ち上がる。
「どうにか加勢してやりてえが……迂闊に近づいたらあいつの炎に巻き込まれそうだ」
見たところ、ユーガの攻撃は広範囲に広がっている。それでも全く手の出せない程ではない。私ならいける。
「……ペラル、回復魔法を急いで。私が行くわ」
「おっと、俺も行くぜリオーネ、あいつにだけは任していられないからな!」
――ユーガ――
ようやく発動してくれた。転生の間でもらったこの能力『龍化』、強力な龍に変身し、その能力を使うことかできることが出来る。意識はしっかりしている。後ろにいるリオーネ達に攻撃が当たらないように最新の注意を払いながら立ち回らなければならない。
手下のデーモングリズリー達は全て片付けた。黒焦げになって俺の周りに倒れている。あとは、親玉のデカブツだけだ。親玉は後ろ足で立ち上がり、両腕を振り下ろした。俺も、両手で親玉の腕を掴み、食い止める。
しかし、俺は気付くことが出来なかった。親玉は口を開け、何やら黒いエネルギーを溜めていることに。
駄目だ、間に合わない。今まさに、黒いエネルギー弾が親玉の口から放たれる。
「はああああぁぁぁっっ!」
「うおおおおりゃぁっっ!」
親玉の後ろ足からリオーネとザックスの声が聞こえる。ザックスは親玉の左足、リオーネは右足の後方を切りつけた。
それにより、バランスを崩した親玉は後ろに倒れる。放たれたエネルギー弾は、俺の頭の上を通過していき、上空で炸裂する。
今だ。二人が作ったこの絶好のチャンス、決して無駄にするわけにはいかない。俺は炎のブレスを吐こうと口を開ける。
――――――おい、イアードばっかずりぃよ、変われ
頭に声が響く。意味を理解する暇もなく、俺の身体はまたも黒いオーラに包まれる。オーラの中で、俺の身体がどんどん姿を変えていく。鱗の色が赤色から輝く金に変わっていく。前足を地につき、二足歩行から四足歩行の生物へ骨格が変わっていく。
ギュルオオオオッッ!
黒いオーラが無くなり、俺は先ほどとは全く違う金の鱗を持った四足歩行のドラゴンへと変貌した。何だ?こんな姿聞いてないぞ?
――――――そのまま飛び上がれ
先ほどの声が聞こえる。俺は声の指示に従い、翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がった。
「あいつ、また姿が変わったぞ! しかも、急に飛び上がってどうしたんだ!?」
「分からない! でも、ここにいたらきっと危ないわ!」
ザックスとリオーネが仰向けに倒れた親玉から距離を取り始めた。これで巻き込まなくて済みそうだ。自分が今、何をしようとしているか、何となく分かってくるのだ。
しかし、親玉は待ってくれない。体勢を建て直そうと、前足を地につき、立ち上がろうとしていた。
「フリーズロック!」
ペラルが杖を構え、魔法を唱えたようだ。親玉の前足と後ろ足は地面ごと凍結し、貼り付けにされた。
やがて、俺は親玉の遥か上空まで飛び上がっていった。右の前足に力を込めると、激しい雷が右の前足を包み込む。地上では、親玉が最後の力を振り絞り、口からエネルギー弾を吐き出すのが見えた。しかし、俺のこの力なら大丈夫。そんな気がした。
俺は雷を纏った右前足を突き出しながら、地上の親玉へと急降下する。そのスピードはすざましい物で、親玉のエネルギー弾をもろともせずに突き抜け、スピードを緩めることなく、親玉へ向かっていく。
――リオーネ――
空から雷が落ち、デーモングリズリーの親玉を貫いた? いや、雷じゃなかった。雷を纏ったユーガが急降下して来たのだ。私は急いで金色の龍となっているユーガの落下地点へと向かう。ザックスやペラルも一緒だ。
「全く、今日はどうなってるのよ! デーモングリズリーが大群で攻めてくるし、ユーガ君はドラゴンになっちゃうし! 頭がおかしくなりそうだわ!」
「俺もどーかんだ! 俺の頭じゃ理解が追い付かねえよ!」
「見て!」
私達は立ち止まって、親玉を見る。親玉の腹の上に、金色の龍が右前足を突き立てていた。親玉はピクリとも動かない。既に絶命しているようね。
金色の龍はこちらに気付くと、親玉の身体から降り立つ。
「ユーガ……?」
私は歩み寄る。大丈夫なはず、さっきも私達に危害は加えていなかった。
ユーガは、私を見ると、微かに笑って、その場に倒れ込んだ。
「おい大丈夫か! おい!」
ザックスが倒れたユーガに駆け寄り、声をかける。またも、ユーガを黒いオーラが包み込んだ。しばらくすると、オーラは無くなり、ユーガの姿は人間へと変わっていた。
「おい! ユーガを病院に運ぶぞ! 親父、手伝ってくれ!」
「当たり前だ! ユーガはこの村の英雄なんだからな!
コトーゼ親子がユーガを病院へと運んでいく。
「ねえ、リオーネ。これ、本当にユーガ君がやったのよね?」
ペラルはデーモングリズリー達の死体を見て、そう呟いた。数百を越えるデーモングリズリーを圧倒的な力で倒したことに今でも信じられないようね。
「私達も病院に行きましょう。ユーガが心配だわ」
「ええ……分かったわ」
私達二人も病院へ向かっていく。
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