デーモングリズリー襲撃

 俺、ザックス、親父さんは村の入り口に向かう道中、逃げ遅れている人達の避難誘導をしていた。


「慌てず落ち着いて地下シェルターへ向かうんだ!」


 ザックスが住民に避難指示を仰ぐ。


「ザックス、ユーガ、避難民は任せる。わしは村の入り口でデーモングリズリーを食い止めてくる!」

「分かりました!」

「任せろ親父!」


 親父さんは、村の入り口へ走っていく。

 村の入り口には戦える兵士達が入り口の目前まで迫ってきていたデーモングリズリーと戦っていた。今はなんとか食い止めているが、いつまで持つか分からない。


「さあオルク、俺らが地下シェルターまで連れていくからちゃんとついてくるんだぞ! 行くぞユーガ!」


 ザックスが逃げ遅れたオルクという少年をおぶる。


「しまった! 一匹そっちに行ったぞ!」


 入り口の方向から声がする。視線を向けると、一匹のデーモングリズリーがこちらに向かって走り込んでくる。


「くそ、ユーガ! オルクを頼む!『地下シェルターまで連れていってくれ!」

「分かった!」


 ザックスはオルクを俺におぶらせ、斧を構えてデーモングリズリーに斬りかかる。


「こっから先は死んでも通さねえぞ!」


 ザックスは高らかに叫びながら戦い始めた。

 俺はオルクをおぶって、急いで地下シェルターへ向かう。場所は教えてもらったので迷うことはない。


「ユーガ! 状況は!?」


 前方からリオーネとペラルが走ってきた。事態を聞き付けてやって来てくれたのだろう。


「ザックス達が戦ってくれてるけど、敵の数が多すぎていつまで持つか分からない! 加勢してやってくれ!」

「分かったわ! 行くわよペラル! 後方支援しっかり頼むわよ!」

「任せなさい! この杖の魔力を試す時が来たわ! ユーガ君、その子をしっかり頼むわよ!」


 二人は村の入り口へと走っていった。

 村の入り口も心配だが、俺が今やることは、オルクをしっかり地下シェルターまで安全に送り届けることだ!



――リオーネ――


 村の入り口では、ユーガの言っていた通り、ザックス達がデーモングリズリーを食い止めてくれていた。


「無事ねザックス!」

「おう! 来てくれたかリオーネ! お前がいれば百人力だぜ!


 ザックスは斧を振り下ろし、デーモングリズリーの首を撥ね飛ばす。


「ザックス、怪我はしてない!?」


 ペラルがザックスに回復魔法をかけようと駆け寄る。


「心配ねえよ、俺がこいつら相手に怪我なんてするかよ」

「べ、別に心配なんてしてないわよ! 一応なんとなく確認してみただけよ!」


 こんな非常時でも、ペラルは素直にならない。いつも通りで安心できるともいえるかしら。

 村の入り口にはかなりの数のデーモングリズリーが他の大人達と戦っている。数が多すぎる。こんな時、お父さんがいれば……今ここにいない人のことを頼っても仕方がない。私は鞘から剣を抜き、入り口へと走り出す。そのまま、デーモングリズリーを3匹薙ぎ倒した。


「来てくれたかリオーネちゃん!」


 ザックスのお父さんが私を見て笑ってくれた。しかし、気を抜いてはいられない。入り口からまた一匹、デーモングリズリーが走ってきてザックスのお父さんに襲いかかる。

 しかし、ザックスのお父さんの後方から火球が飛んできて、デーモングリズリーに命中し、デーモングリズリーはザックスのお父さんに届くことなく地面に落下する。ペラルが火炎魔法を放ってくれたようね。


「大丈夫!? おじ様!」

「すまん、大丈夫だ! 助かったぞペラルちゃん」


 また、別のデーモングリズリーがこちらに走ってきたので、素早く仕留めた。全部で何匹いるの!? 一瞬でも気が抜けない。


「リオーネ、あたしは怪我人を回復魔法で治療するわ、前線は頼めるかしら」


 ペラルの言った通り、何人か怪我をしながら戦っている人達がいた。皆この村を守るために必死なのね。


「分かったわ! 任せて!」


 私は剣に手を当て、体内の魔素をこめる。


『エンチャント・サンダー』


 刀身に電気が走る。これなら、デーモングリズリー相手ならかすっただけでも感電し、死に至らせることができる。


「覚悟しなさい、デーモングリズリー!」


 私は、デーモングリズリーの群れの中へと突撃していく。


――ユーガ――


「ここまで来れば大丈夫だ!」


 オルクを避難所の地下シェルターに届けることに成功した。


「ありがとう、ユーガ兄ちゃん!」

「気にするな!」


 俺はもう一度、村の入り口へ向かおうと走り出す。自分に何が出来るかは分からない。少なくとも足手まといにはならない。


「!」


 俺はつい村の入り口の方向を見て、立ち止まる。


「何だあれは!? いくらなんでもでかすぎる!」


 村の外から大きな影がこちらに近づいてくる。民家などよりも一回り、いや、二回りぐらいでかい。


「あんなのありかよ! 頼む!皆で無事でいてくれよ!」


俺はザックスからもらった剣を握り、また走り出した。


――リオーネ――


 何よこれ、こんな大きなデーモングリズリー見たことない。

森の奥から木々を踏み潰しながら、その巨体は姿を現した。。


「おいおい、こんな化け物いてたまるかよ・・・」


 ザックスが冷や汗をたらし、武器を構え直す。


「お前達! 今まで以上に気を引き締めろ! こいつは他の雑魚とは比べ物になんねえぞ!」


 ザックスのお父さんがこの場にいる兵士達を激励する。

すると、巨大なデーモングリズリーはこちらを見下ろし、目を見開く。


グオオオォォォッ!


 そして、鼓膜が破れるかと思うくらいのとてつもない咆哮をあげた。咆哮と同時に今まで相手していた通常のデーモングリズリーが目を血走らせ、一斉に走り出す。


「こいつら速い!」


 ザックスがなんとか斧で振り下ろされた爪を受け止める。私も自分のところに走ってきたデーモングリズリー達を全神経集中させて切り伏せる。あいつの咆哮で動きが活性化している!?


「ぐああっ!」


  ザックスのお父さんがデーモングリズリーの爪を肩に受けてしまった。


「うっ!」


 それに私は気をとられてしまう。デーモングリズリーに脚を切り裂かれた。切断されてはいないけど、激痛が走る。


「くっ!」


 痛みを耐え、デーモングリズリーを斬る。こんなことで休んでいては、この村を守れない! もう誰も……魔物になんて殺させやしない!


「しまった! そっちに行ったぞ!」


 デーモングリズリーが、1匹、ペラルの元へ向かっていく。危ない!  動け私の脚!


「ペラルゥゥゥ!」


 ザックスがペラルを狙うデーモングリズリーの前に立ちはだかり、斧をデーモングリズリーの頭に振り下ろす。しかし、デーモングリズリーはザックスの左手に死に際に爪痕を残していった。


「ぐっ!!」

「ザックス! しっかりしてよ!」


 ペラルが涙を流しながら、回復魔法を唱える。しかし、まだまだデーモングリズリーの猛襲は止まらない。5匹のデーモングリズリーが同時に襲いかかって来た。私は脚の痛みをこらえながら、デーモングリズリーを4匹切り伏せる。しかし、全部裁ききれない!

 残りの一匹の爪後ろ足で立ち上がり、私の頭を狙う。私は死を覚悟した。

 すると、突如目の前にユーガが現れデーモングリズリーの爪を胸で受けた。私を庇ってくれたの!?


――ユーガ――


 いたい、尋常じゃないくらいに痛い。慌てて走ってきてみれば、ザックスも親父さんもリオーネもペラルも劣勢に追い込まれてる。リオーネにとどめを刺そうとしていたデーモングリズリーの胸元には咄嗟に突き出した剣が刺さっていた。デーモングリズリーは後ろに倒れ込む。どうやら、奇跡的に心臓を一突き出来たようだ。

 俺は膝をつく、リオーネが涙を流して何か叫んでいる。俺、また死ぬのかな?まあ、いいや、恩人の命を救ったのだから、昨日の借りを返せてよかった……俺はゆっくりと目を閉じる。



――――――いいわけないだろ



 このままあのデカブツに村に入られたら、村中が蹂躙される。それで何人の人が死ぬんだ?考えたくもない。なあ、頼むよ、発動しろよ、能力、このままなんの役にも立たずに死ねるわけがないだろ。


――――――俺に守る力をくれよ


――――――いいだろう、お前のことを認めてやる


 何だ? 幻聴か?


――――――俺も認めてやるぜ、お前の覚悟を


 声が二つ聞こえる?


――――――使いこなしてみろ、我らの力を




――――――――


 突然、膝をついたユーガがどこからか現れた黒い禍々しいオーラのようなものに包まれた。


「ユーガ!?」


私はユーガに駆け寄る。しかし、黒いオーラに阻まれてしまう。


「リオーネちゃん! なんだか様子がおかしい! 一度この場を離れるぞ!」


 ザックスのお父さんが、肩を貸してくれる。先ほど自分の肩に攻撃を受けたのに無理して貸してくれた。

 さっきまで人々を襲っていた周りのデーモングリズリーがユーガを包む黒いオーラを見て静止している。怯えているの?


「うおおおおおおっっ!」


 私達が後方に下がり、ペラルの回復魔法を受け始めた頃、黒いオーラの中からユーガの叫び声が辺りに響き渡る


 目の前にいたのは人間のユーガではなかった。巨大なデーモングリズリーと同等の大きさで、全身は赤色の鱗で覆われ、鋭い爪、巨大な翼、太い尻尾を持っていた。昔話でしか聞いたことがない伝説上の生物の姿をしていた。


「ドラ……ゴン?」


 私がそう呟くと同時に、ドラゴンの姿をしたユーガは天に向かって咆哮をあげた。



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