リオーネとの出会い

「立てる?」


 女性は腰を抜かしている俺に向けて手をさしのべる。俺はその手を握り立ち上がる。


「危ない所を助けていただいてありかとうございます! 俺の名前は佐久間祐雅……じゃなかった。ユーガ・サクマです」


 自分の名前をレクシアから教えてもらったようにこの世界に合わせた訂正を入れた。アメリカ人じゃないにも関わらず苗字と名前を逆にするのは違和感を覚えるな……


「私の名前はリオーネ・セルシュ。この近くの村の住人よ、よろしく頼むわ」


 俺とリオーネはそのまま握手を交わす。それにしても人間の村があるのは助かった。


「この地域は最近デーモングリズリーが出没していて危険なのよ、あなた村じゃ見かけないけどもしかして旅人さん?」

「はい、そうです。ここから遠い国から来たんですけど、道に迷ってしまって……」


 この世界とは別の世界からやって来ました。みたいなことを言ったとしても信じてはくれないだろう。それっぽい嘘をついておいた。


「ふーん……あなた、良かったらうちの村に来ない? 店とかもなかなか上質な所があるわよ」


 どうやら、リオーネが村に案内してくれるようだ。俺はお言葉に甘えてその村に案内してもらうことにした。




「ねえ、ユーガって年はいくつなの?」


 これから向かうテナリオの村に続く道中にて、リオーネは話を振ってきた。


「19です」


 前の世界では大学1年生だった。つくづくそんな若い年齢で早死にしたこと嘆きたくなる。


「なんだ、私と同じじゃない。敬語なんてやめましょ」

「そうだったのか、こんな偶然もあるものなんだな」


 タメだと分かって安心する。どうも昔から先輩後輩といった上下関係は苦手なのだ。


「そうだ、さっきからずっと気になっていたんだけど……うおおおって叫んでいたの何だったの?」


……聞かれてたかああっ! 確かに端からすれば命の危機に瀕して発狂したと見られても仕方がないだろう。


「……能力を発動しようとしてあの熊たちを退けようとしたけど何故か失敗した」

「失敗した? 何か調子でも悪いの?」

「……分からない」


 転生の間では確かに発動に成功したはずだ。もしかしてさっきの熊たちにひびって集中出来ていなかったからだろうか? 後で誰もいないところで試しておかないといけないだろう。


「あっ、見えてきたわよ。あそこが私が住んでるテナリオ村よ」


 リオーネが指差す方向にはたくさんの建造物が並び、子供たちも元気に走り回っている。近隣に魔物が住んでいるとは思えないほどの平和な村だった。


「いい村だ、なんか安心できるな」

「でしょ?私もこの村は気に入っているの。ずっとこれからも守っていきたいって思ってる」


 きっと生まれ育った村なのだろう。俺にはもうそんな所は存在しないが、故郷を大切にしたいと言う気持ちはわかる。


「おっ! 帰ってきたかリオーネ! 近隣の様子はどうだった?」


 村の入り口から茶髪の男がこちらに手を降りながら駆け寄ってくる。リオーネの知り合いだろうか?


「デーモングリズリーの数が増えてきている。警戒を強くしておく必要があるわね」


 リオーネが真剣な表情で答えた。それほどまでに深刻な問題なのだろう


「そうか・・ところでそいつは一体誰なんだ?」


 茶髪の男は俺を見て首を傾げる。そりゃ知り合いが村の外から知らない輩を連れてきたらそんな反応もするだろう。


「彼はさっき森の中で出会った遠い国から来た旅人のユーガ・サクマよ。私達と同い年らしいわ」


 リオーネが俺のことを紹介してくれた。


「へえ、そっかぁ! 俺はザックス・コトーゼ! 気軽にザックスって呼んでくれよな! ユーガ!」


 全く屈託のない笑顔をしながらザックスは、俺の手を握った。どうやらこの人もリオーネと同じ信頼していい人間だ。


「こちらこそよろしくな、ザックス!」


(しっかりと手を握り返し、握手を成立させる。


「それじゃ、私はユーガを宿屋まで連れていくわ、またねザックス」


 ザックスと別れ、俺はリオーネと共に宿屋へ向かう。 村中はたくさんの人で賑わっており、改めて平和を感じさせる。




「着いたわ、ここがこの村の宿屋よ」


 リオーネに紹介された宿屋は隅々まで綺麗に掃除されている。ここでの寝心地はさぞかし気持ちいいだろう。


「すげえ、ここまでしてもらってなんだか悪いな」

「いいのよ、それじゃ私はここで失礼するわ、また会うことがあったらよろしくね」

「ああ、本当に世話になった。ありがとう」


 リオーネは宿屋を後にし、立ち去っていく。俺は彼女が見えなくなるまで手を降った。本当に彼女には感謝の気持ちで溢れている。さて、俺も明日に向けて宿をとるとするか。


「……あ」


 さて、とても重要なことに気づいてしまった。何でここまで来るまで気づかなかったのだろうか。自分のアホさに反吐か出る。つい叫んでしまった。


「俺、この世界の金持ってねええええええっ!」


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