いざ異世界へ
異世界に転生する決意を固めた俺はレクシアからこれから行く世界についての知識を叩き込まれていた。未知の世界に一人で何の知識も無しにいくのは無謀もいいところだ。それとどうやら死者である俺がこの転生の間に居続けるのは無理らしく、72時間が限界のようでその間すごく早いペースで教えられた。
タイムリミットまで残り3時間のところで知識の叩き込みは終了。ここまで勉強したのは大学受験の時以来だった。
「これで基礎知識は教え込みました。あとは転生する際に貴方に与える能力のことですが」
そういえばそんなことも言っていたような気がする。一体どのような能力が貰えるのだろうか。
「それじゃあ行ってきます」
レクシアから能力についての説明を聞き終え、俺は目の前に開かれた大きな扉の前に立った。先ほどまではここに無かったはずなのに……これも魔法ってやつか?
「それでは気をつけて、くれぐれも自分を見失わないように」
レクシアからの最後になるであろう言葉を聞き、俺は扉を開け、中に入っていった。自分の身体がまばゆい光に包まれる。これからは一体どんな冒険が待ち受けているのだろうか。
気がつくと、俺は森の中に立っていた。当然、見たこともない場所だ。上を見上げると青い空が広がっている。日本にいたころより綺麗な空に見えた。
さて、俺はどこに向かえばいいのだろうか。レクシアによると送還される場所はランダムらしく、レクシア本人にも制御が効かないらしい。
……いや、普通に大問題だろそれ。それを聞いた時はなんとなく聞き流していたがやばいんじゃないか?
「そうだ、こういう時こそもらったあの能力を使って空を飛ぶことが出来るはずだ」
早速、レクシアから貰ったこの能力を使ってみる時が来た。
その矢先、突然背後の茂みから音がした。咄嗟に振り向く。何秒かの沈黙。そして突然破られた。
グオオオオオッッ!
大型の熊のような生物が茂みから姿を現わす。日本の山奥に生息している熊とは明らかにやばいオーラを感じた。こいつが魔物か!? 人間の力ではとても相手に出来なさそうなほどの大きさだ。
「能力を試してみるか」
大丈夫、転生の間であれだけ練習したんだ。上手くいけるさ。相手は魔物とはいえ熊だ。あの能力を使えば……
無理!いざ対峙するとすっげえ怖え!
俺はすぐさま熊とは逆方向へ走り出す。後ろから唸り声をあげながら追いかけてくる足音がする。恐怖で後ろを確認する余裕なんてない。
「やべえって! 走りながらじゃ落ち着いて能力の発動も出来ねえじゃねえか! このままじゃ体力が持たねえよ!」
そんなことを叫んでも後ろの熊は止まってくれない。俺はただ闇雲に逃げ続ける。
しかし、逃げ道はいつまでも続くものじゃなかった。
「しまった! 行き止まりだ!」
目の前に大きな岩が立ちふさがっていた。そこで立ち止まってしまったが運の尽きだった。改めて後ろを振り返るとさっきの熊が涎をたらしながら近づいてくる。しかも一匹だけではない。どこからやって来たのか3匹追加で合計4匹に追い詰められていた。もう怯えてる場合じゃない。
「怖がってもしょうがない!やるぞ!」
意識を集中させる。転生の間で一度やったようにレクシアからもらった能力を発動させるのに必要なのだ。
「うおおおおおおおおおっっ!!!」
俺は全身全霊の雄叫びを上げた。
……何も起きなかった。
「は!? 待てよ! さっき転生の間でやった時は出来たじゃねえか! どうして・・・」
狼狽えるが、熊の集団は待ってはくれない。4匹でジリジリと距離を積めてくる。今にも飛びかかりそうだ。
「……マジかよ、もう終わりなのか?」
逃げ場はない。後ろは岩、前は熊。もうダメだ。この俺佐久間祐雅の異世界での生活は終わりを告げようとしていた。
熊たちが俺に向かって一斉に飛びかかる。さらば第二の人生。
俺は諦めて目を閉じる。
……あれ?生きている?
痛みはない。熊に押し倒されることもなく、逆に別の何かが地面に倒れ伏すような音がした。
恐る恐る目を開けると、目の前には剣を持った女性が立っていた。黒くて長い髪をポニーテールに束ね、白い服装をしていた。
女性の周りには血を流した熊たちが倒れ伏していた。この人がやったのか……?
「……大丈夫? 怪我はない?」
「えっあっ、大丈夫です」
これがこの俺佐久間祐雅がこの世界にて初めて出会った人間である“リオーネ・セルシュ”との初めての出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます