転生の間

 気がつくと、俺は謎の空間にいた。不思議な場所だった。どの方向を向いても真っ白な景色が続いていたのだ。

 俺は一体どうしたのだろう。確かトラックに轢かれて……思い出すんじゃなかった。しかし、あの悲惨な光景はもう忘れられないだろう。


「そんなことよりここはどこなんだ?」


 独り言を言ってしまった。もし誰かに聞かれたら結構恥ずかしいな。


「ここは転生の間ですよ。佐久間祐雅」


 聞かれてた。人が居るという安心感と共に羞恥心も湧いてくる。理性的な女性の声だった。


「誰だ? どこにいる?」

「これは失礼、姿を見せず申し訳ありません」


 言い終わると共に目の前に美しい銀髪の女性が姿を現わす。服装はとても現代人の物とは思えない衣を纏っていた。


「私の名はレクシア。この転生の間の主です」


 レクシアと名乗った女性は胸に手を当て、頭を下げる。


「レクシアさん、あんたはここが転生の間だと言いましたね。どういう場所なんですか」

「そうですね、貴方にはしっかりと今の状況を説明しましょうか」


 この女神レクシアの話によると、俺は先ほどの交通事故で死んだ後、通常なら天国へ送還される予定だったのだが、俺は例外が適応されたようでこの空間に飛ばされたようだ。この転生の間は、死んだ人間を別の世界に甦らせて新たな人生を歩ませることの出来る場所のようなのだ。


「……やっぱり俺は死んだんですか」

「残念ですが、その通りです」


 淡白に言ってくれる。もう少し言い方に気を使ってくれればいいのに。


「それで俺には異世界で甦るか、甦らずに天国に行くかの選択肢があるわけですか」

「はい、どちらを選ぶかは貴方が好きに選んで構いません」

「……すいません、一人で考えさせてもらってもいいですか」


 女神レクシアは静かに頷き、その場から姿を消した。俺は一人になったこの空間で泣きじゃくった。元の世界の家族、友人、故郷を同時に失った悲しみはそう抑えられる物では無かった。何がスパイスだ。大量の涙を流し、みっともなく鼻水を垂らしながら長時間、ただひたすらに泣き続けた。


――――――――――


 俺はどれだけ泣いただろうか? 時間の感覚が掴みにくいこの空間にどれだけいたのだろうか。丸一日ぐらい泣いていたかもしれない。


「すいません、レクシアさん。もう大丈夫です」

「……お辛かったでしょう。あらゆる物を失うということは」

「気を使ってくれてありがとうございます。俺、決めました」


 俺は涙を拭いながら、決断する。


「異世界に行かせてもらいます」







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