永人れいこ

奥へ

「危なくない?」

 僕の前に大きな湖が見えた。実際に普通の湖じゃなくこの国の一番深い湖だ。

 僕の隣に幼馴染の親友、――西本一宗にしもとかずむねも湖の奥に眺めた。

「危なくないなら皆はもうやった」

 僕は彼に軽く笑った。

「そうかも知れないけど、どうしてお前がやりたい?」

「しないと落ち着かない気がする」

 彼は僕の曖昧な返事に肩をすくめた。彼がきっと僕の気持ちがわからないけど、それでも、僕と一緒にここまでたどり着いた。

 僕は足元に置いていた一つのダッフルバッグを自分の肩にかけた。重くて長い間にこのままに歩けるわけがないけど、湖の元に残りの3キロできるはずだ。一宗ももう一つのバッグを取った。

「じゃ、行こう?」

 僕が彼に振り返ってにこっと笑った。彼はうんと頷いた。それで、僕たちが出発した。

 この湖は僕の一番好きなところだ。こういうような晴れている日で綺麗な景色がよく見えるし、都市からかなり遠くて人数も結構少ない。この前、僕は一人で何度もここに来た。この鳥の鳴き声しか聞こえない自然に囲まれて自分の将来、自分の夢をよく考えた。

「来週よねぇ」

 一宗は僕の後ろから声をかけた。

「そうだね。だから、どうしてもこれは僕の最後のチャンスだと思う」

「確かに首都に引っ越しすとわざわざここに戻るきっかけはかなり減るよねぇ」

「仕方がない。したい専攻にはあの大学が世界一位だ」

「そりゃそうだけど」

 彼が少し拗ねるように言った。

 それも仕方がないと思った。僕は首都にある大学に進学が決まったけど、彼の将来は町の近くにある小さな専門学校だ。彼は大学に入られないわけがない。むしろ、彼が欲しければ僕と同じく首都の大学でも行ける。ただ彼はしたいものはあの専門学校にある。

僕たちがようやく湖についた。

「なぁ、大学終わるとどうするかと思う?」

 一宗は自分の持っているダッフルバッグを大きなドンと地面に落とした。僕も自分のバッグを落としたけど、地面に当たったところ、出した音は彼のより小さかった。彼にすごい申し訳ない気持ちが増えた。

「よくわからない。戻るかな」

 僕は笑った。

「そっか」

 彼の口の端が見えるか見えないか微かに上げた。

 僕たちはカバンを開けて中身を取り出した。ウェットスーツ、エアタンク、フィン、マスク、全部はスクーバダイビングの道具だ。けれど、見るとすぐわかるはずだ。道具は2人に足りない。

「本当に一人で大丈夫か?」

 一宗は最後のものをカバンから出して僕に振り向いた。

「ああ、大丈夫だ。一人でしないといけないものだ。けど、ここまで一緒に来てくれてありがとう。本当にありがとうございました」

「俺は別に何もしてねぇ」

「そんなことないよ。一宗はいなかったら僕はどこにいるか想像でもできない」

 彼は照れくさいに目をそらした。そういう素直なところが悪くない、と思った。僕は首都にいる間に、彼はきっと優しい美女と出会って結婚して子供できて素敵な家族になる。

 僕は違う。僕の将来にはそういう素敵な家族がどこにもいない。

 カバンから取り出した長い棒を手に取った。これだ。これは僕の将来だ。

「準備できた?」

 僕はもうウェットスーツに着替えてエアタンク、マスク、フィンとか、全部が僕の身についた。全部をもう一度確認した後に彼に親指を立てて見せた。

「できた」

「ゴッド・スピード」

 その最高の彼の僕の安全を祈っている言葉で僕が湖の中に歩き始めた。これは僕たちの道がわけるところだ。

 最初の100メートルの後、湖の深さはまだ僕の腰までしかない。けれど、僕はそれが前にも知っていた。次の50メートルの間に、どこか崖のように急に深くなる。急な変更のせいで昔、何人もここに死んでしまった。

 僕はマスクとマウスピースをつけて最後に、僕の親友に振り返った。彼は湖の元にまだ立って、手を振っていた。応援していた。

 また湖の奥に進んだ。そして、2分の後――

 僕は深い湖の底へ落ちていった。つけている腕時計で深さはどれぐらいにいるかと確認した。25、30、40メートルだ。思ったより早く落ちていた。上の日差しがほとんどここまで届かない。暗い。

 一応に言うけど、今はやっていることは物凄く危ないとわかった。こんなところに何かあったら誰も助けられない。上に待っている一宗もスーツがあっても間に合わない。この先に僕しかいない。

 胸につけている懐中電灯をつけた。目の前の暗さが明るくなった。電気を下の方に向いたけど、底はまだ見えない。ウェットスーツが着ても冷水が氷のように感じた。

 じゃ、ここまで、だと自分が決めた。足が動き始めて僕が湖の奥に進んだ。もう普通の人間よりかなり深くなってきたから、少し進んだら探しているものを見つけるはずだ。

 5分ぐらい泳ぎまわった後にやっと見た。僕の電気の明るさの奥に大きな暗い影が動いていた。

 この湖が水の入ると出るところがないから、魚とかなんでもいるはずがないけど、近くの町の皆がわかる。この湖の奥には何かいる。そして、あの何かと出会ったらもう戻らないはずだ。

 手に取っている棒をかたく握りしめた。影がどんどん近くなってきた。これは僕の戦いだ。専攻するように構えた。

 影を見るとこの化け物は想像したより小さいけど、まだ僕より大きい。そうして、速い。

 水の奥に影の動きを見ていた。水の中から汗が出ているか証明できないけど、出ているとなんとなくわかった。怖い。この後にどうなるか僕はわからいない。

 そして、あの瞬間に化け物が来た。何が起こったか気づく前に、僕の目の前に化け物の口しかない。こいつの歯はサメのように尖って列に並んでいた。やばい。

 戦いがもう始まった。


 湖の上に一宗が待っていた。僕が落ちたから30分しか経たないけど、その深く泳いだらタンクに保存されていた空気がもうなくなったはずだ。日も沈んでしまって残りの明るさは地平線に見える真っ赤の線とカバンの近くに置いている電気ランプだ。

 彼の隣には二つの太い線が近い木々から湖の奥に走った。僕が迷子にならないように一つは僕についていた。そして、化け物を戻すようにもう一つの線が持っていた棒についていた。

 一宗がまた自分の腕時計を確認した。もう40分が経った。静かだ。まだ生きたら、一つの線を引っ張るはずだ。けれど、彼は線をどこまで眺めても微塵でも動かない。

 日の明るさが見えなくなった。暗さの中に電気ランプしか残っていない。彼がため息を吐いた。こういうなれば泣かないと約束した。どう悲しんでも彼は部屋に戻って一人になるまで泣かない。

 一宗がゆっくりと電気ランプを取り上げた。最後に、湖の奥へ見送った。そして、ようやく湖と僕を背に向いて後にした。

 タ――ンッ

 一宗が木々に繋がっている線に素早く振り返った。

 タ――ンッ

 線が動いていた。彼は湖の方に目線を送った。彼の口の端がほんの少しに上げた。

「おめでとう」





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永人れいこ @nagahitokun

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