瞬きストーリー(おめでとう)
つばきとよたろう
第1話
その日だけは、おはようも、こんにちはも、挨拶はおめでとうに換わる。
一週間くらいは、それが続く。
イタズラ電話と思って出てみると、夜中の十二時に誕生日のお祝いを贈られる。
まだ生まれてないと返事する。
ヒーローインタビューは、必ずおめでとうございますと言っている。
披露宴の友達のおめでとうには、色々な意味が含まれる。
三歳離れた兄弟を持つ家族には、気軽にその言葉を言えない事情が生じる。
誕生日でもないのに、知らない男から毎晩、おめでとうと言われている。
彼氏よりも、最初に祝いの言葉を言ってしまった。
その老人は、おめでとうと言われたこともないと、自慢げに言っている。
身に覚えのない、おめでとうとメールが毎日届く。
パスワードや個人情報の入力を求められている。
学校の机には、おめでとうの文字が、天板一面に彫刻刀で彫られている。
手のひらのシワが、おめでとうに見えてきた。
昨日見た夢では、幸せ一杯だった。
母ちゃんは、毎日おめでとうとメールを、どこかに送信している。
死にそうな声で、おめでとうと言われている。
はあ、はあと荒い息遣いで、おめでとうと言われている。
自分に、おめでとうと呟いてみる。
おめでとうが、おでめとうになっている。
その老人は朝日に向かって、おめでとうと叫び。夕日を眺めて、ありがとうと合掌する。
屋上から、おめでとうと叫びながら、何かが落ちてきた。
砂浜に書いた祝いの言葉は、たちまち波に洗われた。彼女が見る前に。
知らない犬が、砂に書いた、おめでとうの文字に、後ろ足で砂を掛けている。
ありがとうのところを、おめでとうと言い間違える。
てんとう虫の背中の模様が、おめでとうになっている。
祝儀する方が多い。
曇った窓ガラスに書いた、おめでとうの文字が、おどろおどろしい。
朝、鏡を覗くと、血文字で祝いの言葉が書いてある。
誕生日の話をしていると、いつもあちらのお客様からと一杯、おごられる。
誕生日には、いつも新しい犬を買っている。
バースデーケーキなのに、顔面にパイ投げされる。
目が覚めると、顔面におめでとうの文字と、卑猥な言葉が油性マジックで書かれている。
街中の通行人に、手当たり次第におめでとうと言っている。
排水溝やどぶ川に向かって、おめでとうと言っている。
知らないおじさんが追い掛けながら、おめでとうと言っている。
誕生日と正月が一緒の彼には、祝いの言葉は言いにくい。
生まれた子供が、初めて覚えた言葉が、おめでとうとだった。
オウムが覚えた言葉も、それだった。
オムライスにケチャップで、おめでとうと書いてみる。
弁当のご飯に海苔で書いた文字が、全て蓋の裏に付いている。
ぼくの名前は、小目出豆だ。
棒アイスのはずれの代わりに、おめでとうとミスプリントされてしまった。
そのじいさんは、何を言っても、おめでとうと返してくる。
「お」と入力するだけで、おめでとうと変換できるようになっている。
毎年誕生日には、家を出て行った母さんから、フリーメールで祝いの言葉が届く。
父さんは、その日は帰ってこない。
おめでとうという言葉が憎いと、その老人は言った。
瞬きストーリー(おめでとう) つばきとよたろう @tubaki10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます