「私はピアニストだから」

そう言うと、全てのピアノは私に従った。楽譜もろくに読めない、名前も知らないクラシックを素人目に見て完璧に弾きこなす程度にはなれた。

「私は小説家だから」

そう言うと、万年筆は静かに物語を綴った。可もなく不可もなく、まあ読める程度の文章は書き上がった。

「私は病気だから」

そう言うと、何だか予防線を張れた。失敗しても許されて、愚痴を撒き散らしても同情されて、幸せだった。

「私はいじめられてるから」

そう言うと、周囲は私に冷たくなった。誰も私に干渉してくることは無かった。ただ静かに、息をしていない時が流れていった。

「私は***だから」

そう言うと、私は消え去った。お砂糖が紅茶に溶けるように、さらりと、消えた。

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