電車は規則的なリズムを刻みながら進んでいく。行き先も、考えも、何もかもが違う人たちをごった煮にして。

「学校ではうまくいっているの?」

そう彼は訊いた。

「うん。とってもうまくいってるよ。友達も優しいし、先生も感じがよくて、私、この学校に入って本当によかった」

彼女は答えた。光が宿っていないその目で、じっと窓を見つめながら。

電車が止まる。向かいに座ったカップルが「あんたなんか嫌い」と罵り合いながら、手を取り合って仲良さげに降りていく。

彼女のつり革を掴んでいる方の手首には、無数の赤い線が滲んでいた。そんな夏が来る。

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