傘
寂れた駅のホームで、二時間にいっぺんしか来ない電車を待っている。土砂降りの雨で、視界のはっきりしない中、プラットホームの端に、彼は居た。傘もささないで。
「傘、入れてあげようか」私は言った。
「いらない。」彼はそっぽを向くとこう続けた。
「俺、無神論者だから。こういう時に助けてくれるような、天使の存在なんか、信じてない」意地っ張りめ。
「じゃあ私がただの悪人だったら?」彼はきょとんとした顔をしていた。私は鞄から出した折り畳み傘を見せると、それを投げ棄てて走って逃げる。背後から、「泥棒」と声がした。
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