「あたしたち、確かに愛し合っていたのよね」

気まずい沈黙が漂う。全身が視線に晒されているような刺激を肌に感じて、身震いしてしまうほど、空気が重い。

数秒の攻防の末、彼は、うん、と頷いた。その瞬間だけ、彼は私の愛していた彼に戻ったらしい。さっと目の濁りが取れて、顔だちも幾分か精悍に、その吐息は山嶺の空気のように清涼になった。

愛し合うことの定義のひとつは肉体関係を持つことなのだろうか。もしそうだとしたら、愛は物理的な摩擦と心理的な摩擦で溢れている。愛撫と矯正と重苦しい腹痛。この生々しい感覚が、愛なのだろうか。欺瞞に満ちた繋がりは、やがて破綻する。愛は心の奥底でどろどろの黒いかたまりになって、眠る。

愛のない行為が単なる凌辱に変わらないのと知った暑い日。ストックホルムと言うには気が引ける夏。そんな恋が、今、終わった。

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