薬品や標本への配慮だろうか。理科室だけはいつも日が射さずに真っ暗だった。しかし窓はスクリーンのように青空を映して光っていて、窓際に立つ先輩の表情は逆光で見えない。外からはしゃぎ声が聞こえて、何気なく外を見ると、水泳部がプールで泳いでいる。いつの間にか先輩もそれを食い入るように見つめていて、唐突に窓を開けると、こちらを見て言った。

「ねえ、魚になろう」

そう言うと先輩は校舎の四階からプールめがけて飛び込んでいった。青空に包まれた先輩の身体はきらきらと光って、風になびく白衣の裾が尾ひれになって、袖は胸びれになった。いつしか先輩は大魚になって、プールに突っ込んで水柱を上げた。次は私の番らしい。勢いをつけて窓に体当たりすると、飛び散ったガラス片は鱗になり、羽織っていたカーディガンは背びれになった。いつしか私も大魚になって、プールに自由落下していった。

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