誰も彼も幸せそうで、肩身が狭かった。その人と私は行きずりの交際をしていた。何せ私が世間知らずだから、本当の愛を知らないだろう、などと妙な言いがかりをつけられてしまったのが起因である。彼は会う度に私の身体を舐めまわすように観察すれば、好きな人のために努力しようという気が感じられない、などと身だしなみに文句をつけた。私には彼が軋轢の種を蒔いているようにしか思えなかった。実際その程度の人間だったのだろう、彼は時々ぼろを出した。明らかに私の身体が目当てだと匂わせるような発言。今思えばそれは故意だったのかもしれない。しかしどうであれ不快であった。会えば会うほど、ぼろが出る。嫌いになるきっかけは種として蒔かれ、やがてそれは芽が出て花が咲く。最後の夜、彼は、幸せだったね、と言った。何が幸せだ。本当の愛は、欺瞞で、傲慢だった。

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