僕の3執念

梨花

第1話 

僕(マサル)は、クリスマスイブの翌日、つまり、クリスマスの日、

学校の屋上から飛び降りた。

高校2年生、2学期の終業式の日。

全身に痛みはあるが、まだ意識がある。

「早く、救急車を。」

教頭先生の声だ。

バタバタと人が集まる気配だ。

やがて、救急隊が来たのだろう。


広い川の向こうにたくさんの花が咲く花畑が見えた。

暖かな日差しが感じられる。

あっちに行ってみようかな。

舟があり、船頭さんがいた。

「どうぞ。」

舟に乗ろうとした時、

「マサル、目を開けて。ダメ、だめよ。」

大声で僕を呼ぶのは、母さんだ。

「お兄ちゃん、死んじゃ嫌だ。」

妹だ。

ごめん、ごめんね。

父さんが、母さんの肩に手を置いている。

そうか、これが、幽体離脱か。

みんな見えるよ。

悲しませてごめんなさい。

でも、もう僕戻れない。

戻りたくないんだ。

おばあちゃんもいる。

泣いてる。

みんな泣いてる。


昨日、家族でクリスマスイブのホームパーティーをした。

妹の好きなイチゴののったショートケーキ。

鉄板のフライドチキン。

母さんの作ってくれた手料理もいっぱい並んでいた。


「おばあちゃん、チキン食べれる?」

「ちょっとだけもらおうかね。」

「ケーキ、一番大きいのが私ね。」

いつもと同じ和やかな家族。

違っていたのは、この時、僕は、もう死ぬことを決めていたことだ。


いじめは、高校2年生になってから始まった。

良夫たち3人と特に接点もなかったし、

いじめられたこともなかった。

同じクラスになったが、素行がよくないことは知っていた。

伸也は、気が弱くて、いつも良夫たちにお金を巻き上げられているようだった。

泣きそうな顔をして、連れられて行くのを何度か見た。

校舎の裏の自転車置き場で、泣いている伸也に遭遇した。

「どうした?」

「もう嫌だ。お金ないって言ったら、殴られた。休んだら家まで来るんだ。

もう無理なんだ。」

声を震わせて、消えそうな声で言った。

「先生に相談しよう。」

「無駄だよ。先生知らん顔。もっと、ひどい目に遭う。」

「でも…」


翌日、伸也は、休んだ。

良夫が近づいて来て、

「お前、昨日、伸也と何話してたんだ?」

と聞いてきた。

「伸也脅して、金取るのやめなよ。」

と言うと、良夫の顔が一機に険しくなった。

「脅してだと。あいつがくれてるだけだ。仲間だから」

「仲間?いじめてるだけだろ。」

教室の空気が重くなったのを感じた。

「マサル君、ちょっと話そうか。」

良夫と明、勝美に囲まれて教室から連れ出された。

教室内は、ざわついていたが、誰も止めてはくれなかった。


体育館の裏まで腕をつかまれたまま、連れて行かれた。

「離せよ。」

「元気がいいな。何様のつもりだ。」

いきなり、腹に膝が入った。

倒れそうになるのを無理やり立たせて、

背中を蹴られ、腹を蹴られた。

「いいカッコすんなよ。」

二人に両腕を掴んで立たされ、

まるで捕まった異星人のような形の僕のズボンを良夫が下ろし始めた。

「やめろよ。やめて。」

途中からスマホを取り出して、動画を撮り始めた。

身体を揺らして抵抗する僕を

「マサル君、いい感じだね。」

と笑いながら、撮影を続ける。

「やめて!」

不覚にも涙声になった。

あそこを無理やりにしごく。

感情とは別に、身体は反応するらしく、

あそこが変形する。

無理やりだった。


「面白かったよ、マサル君。5000円持ってきたら、この動画は流さないからね。明日、よろしく。」

と良夫が言うとやっと、解放された。

3人は、笑いながらその場を去った。

投げられていたズボンと下着を鷲掴みにして

ボロボロと涙がこぼれた。

悔しさ

恥ずかしさ

敗北感

なんで、という疑問。


1時間過ぎてから、教室に戻った。

3人は、僕を見てニヤニヤ笑う。

放課後、

「マサル君、一緒に帰ろうよ。」

と明が言った。

なにも答えずに帰ろうとしたが、また両腕を掴まれた。

「明日、よろしくね。」

5000円か…

払ったら負けだ。

でも、家族にこんなこと言えない。

お年玉の一部は、手元にあった。


翌朝、自転車置き場の近くに3人がいた。

「おはよう、マサル君。」

すぐに両腕を掴まれて、拉致された。

5000円札を渡す。

「あれ、消してよ。」

「そうは、いかないよ。これは、今日の分だから。今日は、流さないってこと。」

「約束じゃないか。」

「約束なんてしてねえよ。」

絶望的な気持ちになった。

「明日もよろしく。」

「無理だよ。」

「じゃあね~」

そのまま、3人は授業には出なかった。


クラスの皆は、空気を察し、僕に近づかなくなった。

幼なじみの亮介だけは、心配してくれた。

「大丈夫か。先生に相談しようよ。」

「大丈夫だよ。」

精一杯強がって見せた。

それからも、金の要求は続き、

おばあちゃんや母さんの財布から金を盗むようになった。

ごめんなさい。


共働きだったので、僕はおばあちゃん子だった。

心配もかけたくない。

優しいおばあちゃんの大事なお金にも手をつけた。

罪の意識は、増大する。

お金を持って行かなかった日は、

また、下半身の動画を撮られた。


4か月ほど経っていた。

もし、僕が逃げられたとしても、3人は、また、次のターゲットを見つけるだろう。

もう、僕で終わらさなければ。

僕が死ぬことで、後悔するかも知れない。

反省するかも知れない。

するはずだ。

命がけで訴えるのだから

そんな思いが募るばかりだった。


ノートに3ページにわたる遺書を書いた。

ここまでの事実もある程度は書いた。

両親、おばあちゃん、妹に、感謝と謝罪の言葉も書いた。

楽になりたいというよりは、あいつらに最後の1撃を与えたかった。


僕の葬儀に3人は来なかった。

ノートが見つかってから、両親は、学校にいじめの実態を調べて欲しいと訴えた。

3人を相手に、損害賠償請求の民事訴訟も起こした。

息子を失った悔しさ、

悲しみ、

ぶつけるところがなかったからだろう。


僕は、3人の様子をずっと見ていた。

第三者委員会というところの見解が出て、

3人によるいじめも自殺の原因の一つと思われるとなった。

それを受けて、3人が、謝罪に訪れれたのは、1年以上経過してからだった。

その後も悪さをしていたのに、3人は、無事高校を卒業したのだ。

僕の前で頭を下げて

「申し訳なかった。」

と言ったが、家を出たら

「これで終わったな。」

とせいせいしているではないか。

この時から、僕の復讐が始まる。


3人は、それぞれ就職していたが、ろくに長続きしない。

特に良夫は、人に使われることに我慢がならない。

喧嘩しては辞めてしまう。

勝美は家業を継いでいた。

明もそこそこに真面目に働いていた。


良夫は、相変わらず親分風を吹かせて、

2人を呼び出して、酒盛りをした。

支払いは2人だ。

僕が死んで3年目のクリスマス。

そう、僕の命日。

世間では、一番楽しい日のはずなのに、

僕の家族には、一生悲しい日になってしまった日。

これもそれもお前たちのせいだ。

お前たちは、忘れているようだが…


3人が、カラオケボックスに集まっていた。

僕のことを思い出しもしないあいつらを、僕は許さない。

反省もしないし、心を痛めることもない。

許してたまるか。

この時とばかり、部屋のロックがかかるようにし、

3人を部屋に閉じ込め、ありとあらゆる恐怖を与え続けた。

「どうなってるんだ。」

「電話しろ。停電か。」

モニターには、あいつらが続けていたいじめの映像が流れ、

部屋の照明は、激しく点滅。

そう、霊になった僕には何でも出来るんだ。

お前たちのしたことよりもっと凄いことが出来るんだ。

死んだら終わりだなんて、思わせてたまるか。


僕が死んだ後、僕の家族はずっと悲しみと苦しみを抱えているんだ。

もちろん、死を選んだ僕が悪い。

なぜ、相談してくれなかったの?

なぜ、気づいてあげられなかった

と両親は、自分を責め続けている。

言えなかった僕が悪いのに


僕に死ぬほど辛い思いをさせたお前たちは、

何もなかったように暮らしている。

それが許せなかった。

モニター画面が、バチバチと音を立てる。

おしぼりが空を舞う。

グラスが倒れる。

「やめろ、誰のいたずらだ。」

良夫が、焦った顔をしている。

「ズボン脱げよ。」

「誰だ?」

「お前らは、忘れるんだな。」

「マサル?マサルなのか?」

「お前らが僕にしたことを、今お前たちにしてやるよ。」

「ごめん。悪かったよ。許してくれ。」

「今更、何を言っているんだ。お前らにいじめられて怖い思いをした人間が何人いると思っている。今日が、3周年だ。忘れていただろう。」

手を合わせて、震えながら

「ごめん。すまない。許してくれ。」

「絶対に許さない。」


夜中の2時、お店のスタッフが部屋を開けると

目を見開いて、下半身を丸出しにした3人が息絶えていた。

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僕の3執念 梨花 @shinobu1120

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