ゆかり〜ず三周年

たちばな立花

第1話

 今日はひと月早い三周年記念パーティが執り行われている。


 会場は近所の公園。花壇の前。


 手に持つのは、自販機で買った缶ジュース。


「それでは~。ゆかり~ず三周年を記念して……」


 缶ジュースのプルタブを一斉に開けた。


「かんぱ~い!」


 三つの缶がぶつかり合う。今日は、大切な日だ。


「由香里、またオレンジじゃん」

「え~、友加里こそいつものココア」


 そして、私はいつもの紅茶を口に含む。三月の風はまだ冷たい。式典を邪魔するように風が吹いた。


「さっむ。他に場所なかったわけ?」

「だってね~。ファミレス高いし」

「三周年記念なのに、ケチる?」

「金ないって言ったの由香里じゃん~」


 由香里は唇を尖らせながら、冷えたオレンジに口をつけた。そんなに寒いならあったかい飲み物にすればいいのに、彼女は絶対に譲らない。ファミレスの飲み放題もいつもオレンジだ。


「いや~、ゆかり~ずもとうとう三周年か。長かったねぇ」


 友加里の言葉に私達三人は顔を見合わせた。


「本当、紛らわしいよね」

「クラスに三人も『ゆかり』がいるなんてさ。入学したときは『聞いてないよ~』って思ったわ〜」


 私達は高校一年の時に同じ教室で出会った。友加里、由香里、優香理と並んだ名前を見て顔を引きつらせたのが昨日のことのようだ。


 たったそれだけの共通点。私達は友達になった。


「最初はさ、紛らわしいから絶対仲良くしない! とか思ってたんだよ」

「えっ。一番に声かけてきたの由香里じゃん」

「うるさいな~。優香理が寂しそうにしてたから~」


 私は二人のテンポの良い掛け合いを、曖昧に笑って眺めている。


 名前以外に共通点のない三人は、名前という共通だけで三年間繋がれた。


 私が優花理という名前でなければ、高校三年間は友達が一人もできなかった可能性だってある。


 無難に過ごそうと思っていた三年間が騒がしいものになったのは、全ては『ゆかり』という名前からだった。


『ね、誰がゆかりってあだ名使う?』


 そんな風に声をかけてきた由香里の顔は未だに忘れられない。あの日、髪を茶色く染めて、グレーのカラコンをした彼女を怖いと思ったのだ。


 別に中学時代『ゆかり』というあだ名で呼ばれたこともない。好きにしたら良いと思っていた。


 結局、三人とも『ゆかり』とは呼ばれず、名字をもじったあだ名で呼ばれるようになったのだが。彼女は頑なに『ゆかり』を譲らず、気づけば三人だけは紛らわしくもお互いを『ゆかり』と呼ぶようになっていた。


「優花理は県外だっけ?」


 突然声をかけられて肩が跳ねる。私があまり話さないと声をかけてくれるのはいつも由香里だ。


「うん、そう。東京の大学」

「ゆかり〜ずの出世株だよねぇ〜。東京遊びに行ったら泊めて〜」

「うわっ、ホテル代わりにしようとしてる。優花理、やめときな〜。良いって言ったら月一で行くよ」


 お調子者でクラスの人気者の友加里は、調子良く笑った。


 本当、友達だってことが奇跡みたいな話だ。


「友加里ちゃんは専門だよね?」

「そー。県内にいるから、帰ってきたら遊ぼ」

「てか、四周年もやるから、春休みはちゃんと帰ってこいよ〜」

「……うん」


 四周年もやるんだ。三年限定の友達だと思っていた。


「由香里は就職でしょ? 休み取れるの〜?」

「学生の二人が予定合わせるに決まってるじゃん」

「ま、そうなるか〜」


 二人が笑い合う。この光景も今日で終わり。


 私達は寒空の下、最後の時を惜しむように三年間の思い出を語り合った。


「さーて。じゃあ、帰りますか!」

「ばいばい、ゆかり」

「ばいばい」

「うん、ばいばい」


 ゆかり〜ずは、あまりぱっとしない予定だった三年間を彩ってくれた。


 これからは、一人で頑張らなくちゃ。


 でも、高校入学の時もよりも、なんとかなるような気持ちでいるのだ。


 これも全部二人の『ゆかり』のおかげかもしれない。

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ゆかり〜ず三周年 たちばな立花 @tachi87rk

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