第7話 幕間劇 ~覗く先輩、引く後輩~
「……うわ。覗きでもしてんですか、先輩」
二階の窓から新入生の様子を見下ろす男子生徒に、もう一人の男子生徒が声をかける。
「ばッ、ちっげーよ、人聞きの悪い! こっそり見てただけだって」
「それを覗きって言うんでしょ」
ひょい、と投げ渡した紙パックのジュースを振り返りもせずにキャッチした先輩生徒は「サンキュ」と一言だけ答え、ストローも刺さずに窓の外を見つめ続ける。ジャンケンに負けたとはいえ買いに走らせたくせに、よほど面白いものでも見つけたのだろうか。
「もしかしなくても、去年もこうしてたんですか」
「こうって?」
「いや、だから覗き。去年、部活勧誘が始まるより前に、俺に声かけてきたじゃないですか」
それはつまり、入学式の時点で既に、後輩生徒は彼に目をつけられていたことを意味する。
「当ったり前だろぉ? オレの有能新人センサーなめんなって。お前のことは一目見た時からビビッときてたぜ」
うっわキモっ、ストーカーとか引くわ、と答えようとした口を必死で噤む。
「俺のことはともかくとして、そんな毎度都合よく見つかりますかね。こっからじゃ見た目くらいしかわからないでしょ? もっと技術とか知識とか、人当たりとかさ」
「いーや、わかる」
後輩の言葉を遮り、先輩は自信たっぷりに言った。
「現に、もう見つけてる。二、三人ほど、面白そうな子たちをな」
そこでようやく先輩は後輩の方を向き直り、太陽のようにニカッと眩しく笑った。
「……本当、『見つける』のだけは得意ですよね、先輩は」
そういえば先日のライブの日にも迷子の女の子を見つけ出したと聞いたことを後輩は思い出した。いつまで経ってもステージに現れない先輩にヒヤヒヤさせられた心臓に悪い記憶まで一緒にだ。
「だけは、とは何だよぉ」
「この
「なぁに言ってんだ、レイ」
ニカッと笑って、こともなげに先輩は言う。
「お前がどこにいても見つけてやったさ。どっかの誰かじゃない、このオレが」
無邪気な笑顔のくせに、どこか風格さえ滲ませるそんな表情に。
後輩は思わず期待してしまう。
彼の言う通り、今年も面白い連中がやってくるに違いない、と。
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