第133話「秘密」
「あ」
わたわたしていた最強主人公ちゃんが声を上げると、急に片胸がこそげ、ポムッと足元で音がした。
「ん?」
音の場所に視線をやれば、そこにあったのは、服か何かを縛って作ったのであろう布の塊があり。
「これは……あー」
しばらく見つめて、理解に至る。詰め物だ、と。
「しかし、なぜ詰め物が」
とは聞かない。頂いたコメントによる警告があったことを踏まえれば、おおよそ予想はつく。最強主人公ちゃんはおそらく、あの欠陥魔法に手を出していたのだろう。その上で、胸が大きくなったときのことを想定して胸が育った時の現状との差異について事前確認していたのだとすれば、説明がつく。
「いや――」
一応おっぱいお化けの胸を見て自分の胸が小さいのではないかとか思い立って詰め物を始めた可能性だって皆無と言う訳ではないが、前者と比べるとどうしても理由として弱い。むしろそれならウェイトトレーニングの重りだったといわれた方が納得がゆく。
「それはそれとして、だ」
欠陥魔法の件は外で口にしていい様な話ではないし、話が長引く可能性があるのに立ち話はよろしくない。
「とりあえず、話をしよう。中で、な?」
しゃがんで最強主人公ちゃんの落とした詰め物を拾い上げ、差し出しつつ促す。
「そ、そうでつね」
それで何とか復活出来たらしく、同意する最強主人公ちゃんを伴い俺は寮の中へと足を踏み入れ。
「さてと、何から話すべきか……」
後に続いた最強主人公ちゃんが後ろ手に扉を閉めるのを確認して、近くの壁に歩み寄る。部屋の中央に突っ立っていても邪魔だろう以上に深い意味はない。
「そうだな。単刀直入に一番重要なことについて話してしまうか」
「じゅ、重要?」
オウム返しに単語を反芻する最強主人公ちゃんに、とりあえず座れと指示を出す。
「俺の恥を話すことにもなる。若干話しづらい分、少し長い話になるだろう。あれは、俺がまだこの特別魔法教官にもなっていない昔の話だ」
ここからの説明は事実いろいろ抵抗があったが、あの欠陥魔法から手を引かせるにはどうしても語らざるを得なかった。そう、あの欠陥魔法を欠陥魔法たらしめる副作用についてだ。
「自分でも認識しないうちに自分を、でつか」
「ああ。俺がその魔法の欠陥に気づいたのも幸運とか偶然に他ならないが、だからこそ自分が自分に行うとしたら、術者本人はこの欠陥に気づけん」
真面目な顔で語りつつ、ちゃんと聞いてくれていることに内心で安堵する。胸は詰め物だったから手遅れと言うことはないと思うが、すでに欠陥魔法は使用していておかしくなってしまっている可能性はあったのだ。
「それで、えっちになって何がダメなんです?」
とか、倫理面でずれが生じるレベルにまで変質していて真顔で質問されたら、話をつづける前に最強主人公ちゃんに何らかの処置を施さなければいけなかった。
「お話はおおむね理解しました。確かにボクはその欠陥魔法を……その、ちょっと使ってしまってました」
「……そうか」
平静を保ちつつも、その告白に脳裏では顔をひきつらせた自分が盛大に胸をなでおろす。危なかった、本当に危なかった、ただ。
「ですけど、一つ理解できました。教官があの胸のとても大きい人を連れてきた理由が」
「ん?」
「その欠陥魔法の使用者かもってお疑いになっての事だったんですね」
最強主人公ちゃんがそんな結論に至ったのは俺にとって想定外だった。
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