第132話「でっかくなっちゃった」


「はーい」


 中からごく普通の応答があったことに、俺は少しだけ安堵した。何のかわりもない、ごく普通の調子の最強主人公ちゃんの声。


「やはり、取り越し苦労だったようだな」


 間に合わないだの間に合えだの焦りまくってはいたが、この世界が創作物なら、展開に作者の意図が大きく影響する。作者が成人向け作品に大きく舵を切りでもしなければ、そもそも手遅れ何てありえない筈だ。


「俺としたことが、とんだ失態だった」


 冷静に考えればありえない事態に怯え、大騒ぎしてここまで飛んで来たことを思い出すとちょっと恥ずかしくなる。


「確かに最強主人公ちゃんがアレに手を出した可能性はゼロではないかもしれないが、取り返しのつかないところまで行ってしまったら、作者が場を収めるのに困る」


 自分で自分の首を絞めることになるというのに、わざわざやらかすだろうか。答えは否だ。


「夢オチのパターンでなかったことにするという手もありはするが――」


 俺が意識を失うような状況があったとすれば、浴場の一件くらい。しかもそこで俺が逆に最強主人公ちゃんに幻術を使った臨死体験もどきを演出している。


「ここで夢オチ展開なんて持ってきたら、内容が被る」


 夢だの臨死体験だったので有耶無耶にする二連発を行うとはちょっと考えづらい。


「作者の思考を参考にするのはちょっとメタいが――」


 不安だったんだからしょーがない。


「とは言え、これで懸念は解消された」


 あとは出てきた最強主人公ちゃんに欠陥魔法の事を話し、既に行使してしまっている様であれば、出来るだけ副作用が問題ないように処置してそれで終わりだ。


「俺も殿下のトレーニングメニューに戻れるし、一つ取り返しがつかなくなるかもしれない要素も潰せる」


 手遅れになる前に作者が手を打ったような気もするが、それでもコメントを下さった方には感謝すべきだろう、ただ。


「どちら様で」


 それ以上続けるよりも早く扉が開き、最強主人公ちゃんが姿を見せた。


「ああ、俺」


 だから俺も名乗って用件を伝えようとしたのだが。最後まで言い終えるより早く目に飛び込んできたのは、あのおっぱいお化けほどではないものの、年齢を加味すると異常なほどに大きくなった胸のふくらみ。


「は」


 さっき別れた時は、こんなに大きくはなかった。それはつまり。


「あ、特別魔法教官。何かご用で――」


 絶句する俺の視線を辿った最強主人公ちゃんも自分の胸に目を止め。


「あ、ちょ、こ、これは」


 何やら慌てふためいているようだったが、その内容はほとんど耳に入ってこなかった。当然だ。


「間に合う」


 そう思っていたのに、全然間に合っていないし、作者は何をしているというのか。俺自身の過去に受けた影響を参考にするなら、あれはもう手遅れのラインを完全に超えている。異性を見たら服を全部脱ぎ捨てて襲い掛かってくるぐらいにどうしようもなくなっている段階であり。


「あれ?」


 そこまで考えて、ふと気づく。最強主人公ちゃんは何故襲ってこないのだ、と。









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