第131話「大丈夫だ、俺は必ず間に合うっ!」*


「大丈夫だ、俺は必ず間に合うっ!」


 自分で自分に言い聞かせるうちに視界に認めた最強主人公ちゃんの住んでいる寮がどんどんと大きくなってくる。


「あれ、これって間に合わないフラグになってない?」


 なんて一瞬思ったが、気のせいだ。気のせいってことにしておこう。この俺、特別魔法教官であるスーザンが魔法による飛翔もってほぼ全速力で向かっているのだ、間に合わない筈がない。


「あ」


 問題はただ一つ、焦るあまり加速し過ぎたことだ。


「っ」


 減速が間に合わずホップするように上方へ軌道を変え、ダイナミック入寮を避けつつ更に急上昇してループを描きつつ減速する。


「くっ、俺としたことが」


 単純なことに気づかなかったことが内心の動揺を物語る。


「だが、たどり着きはした、たどり着きはしたんだ!」


 飛翔の魔法は解かず速度だけほぼゼロに近づけたため、ふよふよと浮くようにして見下ろす眼下には見まごう事なき寮の建物があった。


「ここまで来たら――」


 あとは降りて、最強主人公ちゃんにあの欠陥魔法について話す。


「俺の取り越し苦労で、まだ手を付けてなければそれはそれでいい。欠点について話せば最強主人公ちゃんとて試そうなどとは思わない筈だからな」


 問題は既にあの欠陥魔法を行使していた場合だ。


「少なくとも浴場で指導した時点で、俺は最強主人公ちゃんの異変に気づけなかった。つまり、第三者視点で変だと思う程欠陥魔法の悪影響はあの時点では出ていなかったはずだ」


 なら、充分取り返しはつく。


「ただ……もし、浴場での失敗を恥じて、『同じ失敗はすまい』とさらなる実力をつけるべく――」


 なりふり構わず出来うる限りの成長を欠陥魔法で臨もうとしたら、どうなるか。嫌な考えが脳裏をよぎる。


「っ、大丈夫。こうして全速力でたどり着いたんだ。最悪の展開なんて……あ」


 頭を振り、ふと気づく。コメントが一件増えていることに。


『急がないと本当に間に合わないかも』


「ちょ」


 思わず声が出たとしても、きっと仕方ないと思う。不安と戦っていた俺としては、追い打ち以外のなにものでもない。


「最強主人公ちゃんの年頃を考えると、あの欠陥魔法は発育方面にも影響を及ぼしている筈」


 つまり、問うまでもなく明らかな手遅れの場合、体格を確認しただけで判別がつく。


「最悪のケースだと、そうだな……」


 中に入った途端、急激な発育に服が耐えきれず破れた上であのおっぱいお化けみたいな体型の最強主人公ちゃんと出くわしたなら俺が行うのは、問答無用で魔法による拘束だ。そこまで行ってしまうと、おそらく手の施しようがない。


「いただいたコメントがいろいろフラグを補強してる気がするのは、きっと俺の気のせい――」


気弱になってはだめだ。そもそも悪い方に考え過ぎだろう。ただ、油断はすることなく俺は寮の戸口の前に降り立つと、唾を呑み込み、固い顔でノックしたのだった。




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