第129話「欠陥魔法の恐怖」


「あの欠陥魔法は、成長部分を強化する魔法だ。良くも悪くも」


 その結果、人より過剰に過剰に成長する訳だが、成長後の精神と肉体自体に魔法がかかっているわけでもない。


「つまり、『ちょっと背が高く』なろうが、『ちょっとアレな方面の欲求に正直に』なろうが、魔法によって捻じ曲げられている訳でもなく、『それが正常』と言うことになってしまう」


 となるとだ、魔法などで異常になってしまったところを戻す魔法を使っても、まったく効果がない。


「仮にアレさが成長強化によって+30されて初期値が30になってしまったとする。この人間に初期値に戻る魔法を使っても、30が初期値だから変わらない、という訳だな」


 更に言うなら、この変化通常は自覚症状もない。たとえば、成長期の人が身長が一センチ伸びたとして、うわ視界が一センチ高くなったなんて驚くだろうか。


「成長と言うのは基本的に当人の自覚がないほどゆっくりなモノだからな」


 成長強化で自覚症状が出るとしたら、どれほど強化しなければならないか。


「そこまで行くと身体への負担も並じゃないからな」


 普通、行おうとは思わない。身体への負担とならないレベルでの使用を考える。俺も実際そうした。


「だから、本来なら俺も気づかない筈だった。自覚症状が本来ない変化に気づけたのは、俺がこの世界を創作物の世界と認識していたからだな」


 俺には人とは違う視点と知識があった。その中にはこの魔法による欠陥に似たストーリー展開を見せる小説なんかが存在したことが、自覚へ大きく貢献した。


「原作知識とは違うが、自身の行動が物語をなぞる様であればな」


 結末を見て自身を顧みることで最悪の展開を回避できたという訳だ。


「しかし、思い返してみると前世もちであるがゆえに俺が得たモノと言うのは――」


 それなりに大きかったと再認識させられる。


「風邪をひいたときもネギとか首に巻いたりしたしな」


 万能レベルで魔法の発達した世界だと医学の発達が阻害されたりもする。この世界ではそういうことはなかったものの、前世の世界と比べると文明にしても医学にしても大きく後れは取っていた。


「しかし、風邪。風邪か……」


 風邪を引くと、人は時として思考がヤバくなる。熱でもうろうとしてありえない案が魅力的に思えたりしてしまうのだ。


「いや、よそう」


 これ以上黒歴史を掘り起こしても何の得にもならない。


「そんなことより、今すべきは殿下の修行を見る準備やスケジュールの調整をしないとな」


 士官学校の授業が始まってしまえば、今より忙しくなる。手が空いている内に出来ることはしてしまうべきだろう。時間は有限なのだから。











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