第128話「後始末を終えて」*


「では、清掃係の者に伝えておきますね」


 共同浴場を管理する職員のそんな言葉に俺はよろしく頼むと頭を下げた。最強主人公ちゃんの前で口にしたことを有言実行したわけだが、とりあえずこれでやるべきことはやったとも言える。


「さて、俺は失礼させてもらおう」


 報告も済んだし、居座る理由もない。最強主人公ちゃんの誤解は解けた。くるりと踵を返して歩きだし。


「あ」


 職員から見えなくなった辺りで口から声が出た。


「教え子への挨拶が半端だったか」


 やるべきことはやったとは何だったのか。まぁ、それだけ最強主人公ちゃんの件でいっぱいいっぱいだったと言うことだろう。


「ただのあいさつ回りなら、ハプニングもあるまい」


 殿下の修行の監督も残ってはいるし、新学期に向けた授業の準備だってある。何もせずごろごろしている訳にはいかないものの、最強主人公ちゃんと行動する時程予測不能さに振り回されることはない筈だ。


「創作物としてみるなら山も谷もない平穏さと言うのは、『見ていて楽しいの?』と思わなくもないが――」


 そこは作者が考えることだろうし、読み物とかとして魅力がないならばそれはそれでやりようもある。


「『そして一か月後――』とか時間をスキップすればいいだけだしな」


 こちらとしても、人の目を気にせず仕事ができるというのも悪くはない。


「仕事がある以上、休暇とか骨休めという表現はおかしいが、少し休ませてもらうとするさ」


 今後の展開に頭を悩まされない、普通の日常を楽しむ。俺はそのつもりでいたのだが。


「ん?」


 ふと気づく、寄せて頂いたコメントが一件増えていることに。


「このタイミングで、コメント?」


 疑問を覚えた。訝しくもある。そして、不安も感じつつ、俺はそれを拝見し。


「え゛」


 声を出して顔を引きつらせる。


『主人公ちゃんに魔法を教えて 最終的には教官の内なる獣も継承されるのでしょうかね?』


 これは、内なる獣って何だとまずツッコむべきか。


「この『魔法を教える』とは」


 ひょっとしてあの欠陥魔法の事だろうか。そうでないと内なる獣と言う部分とつながらない。


「そうか、アレを教えて――」


 最強主人公ちゃんが痴女を飛び越えて獣に。


「出来るかぁぁぁぁぁーーーっ!」


 自分で体験したからわかる、あれはだめな奴だ、と。確かにトレーニング面での効果は絶大だが、あれは成長面を強化する強化魔法であるため、魔法の効果が終わっても成長結果は残り続けるのだ、それに。


「ヤバいと思って即座に処置したから俺は大丈夫だが」


 自身のムラムラを押し殺しつつ精神の平穏を保つ魔法を行使しようとするのも大変だった。そっち方面の妄想などに意識がそれそうになるのを強引に捻じ曲げて魔法を使う為の精神集中を行ったのだ。


「平静になったから、あれがいかにヤバいモノか再認識も出来た」


 だが、平静を取り戻せずあの魔法の効果が残ってしまうと、更に恐ろしいことが起きる。






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