第127話「そして意識は過去に飛び」


「転・生ッ!」


 誰もいない山の中、空を仰いで俺は叫んでいた。いい天気だった、空は晴れ渡り、浮かぶ白い雲は遮られることなく風に吹かれ緩慢にどこかへ流れてゆく。


「異世界転生で魔法アリのファンタジー世界、得たアドバンテージを活かすなら、訓練するしかないでしょう!」


 周囲に誰もいないのは確認済み。俺を止められる者はどこにもいない。


「そんなこんなで訓練してるわけだけど、やっぱり訓練するなら効果がより高くなった方が良いよな」


 時間は有限、ならば出来うる限り最大の効果を。


「確かトレーニングで筋肉がつくのは、損傷した筋肉を補う様に修復した分が超過して修復した余剰分だったよな。そして人の身体は成長することで強靭になってゆく」


 そう思った俺は前世の知識を引っ張り出して、考え。


「この成長部分に肉体強化魔法みたいに強化をかけられたら、トレーニング効果が倍増するのでは?」


 と言う結論に思い至った。


「はっはっは、我ながら天才的なひらめきだな」


 この時の俺は調子に乗っていた。乗り過ぎていた。


◇◆◇


「……本当にあのころは若かったな」


 肉体の成長を強化する魔法、思いつきを形にして実行に移したのだが、それはとんでもない欠陥魔法だった。


「肉体の成長にはいろいろなモノが関わってくる、成長ホルモンだのなんだの。つまり、第二次性徴が起こる発育なんかとも無関係じゃないからな」


 強化はそういうところにも派生した様で、肉体的にも意図せぬ影響を及ばしたりした訳だが。


「全般的に性的な方面での成長も強化とかしちゃ駄目だろ」


 端的に言うとムラムラして、こう、その手の年頃の少年なら持っていそうな欲求が増幅され、持て余し、精神を正常に保つ系統の魔法を自分にかけてなんとか事なきを得たが、あれは一歩間違うと性犯罪者を量産してしまう大欠陥魔法と言わざるを得ない。


「まぁ、あんな魔法の発想に至れるのは俺ぐらいだから良いが」


 そもそも魔法の効果が効果だ。別の視点から見ると効果対象をエッチにしてしまう魔法としても成立するモノを他者に教えられるわけがない。


「悪用されて酷いことになるのが目に見えてるからな」


 欲望への人の弱さは身に染みてわかっている。


「あの、教官」

「ん?」


 そんな俺を我に返らせたのは、最強主人公ちゃんの声。


「今日のところはこれで切り上げて戻ります」

「そうか」


 どうやら続けるつもりはないらしい。


「ならば俺は利用し終えたことを伝えて来よう」


 結界で被害を防いだために後片付けの必要もない。時間的に入浴用途での利用はないだろうが、だからこそ清掃をする可能性がある。


「共用の設備だからな。使わないならその旨はなるべく早く伝えねばならん」


 もっともらしい事を言いつつ、俺は踵を返した。




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