第125話「何もなかったことにして」
「さてと」
俺は周囲を確認し、浴場に破損がないことを確認してから壁にもたれかかり、最強主人公ちゃんが目を覚ますのを待つ。教官なのだ。踏み台として役目を果たすまでは、先人らしく平然としているべきだろう。
「それに触発されて一気にパワーアップとかしてくれれば、あっさり超えられるやもしれん」
それは俺がお役御免、自由を手に入れる時でもある。
「週休二日詐欺、休日出勤当たり前の便利屋生活ともおさらば」
ああ、なんて素晴らしい未来だろう。こう、今までこき使われてた分、何にも縛られない時間を満喫したりしてもいいかもしれない。
「例えば昼寝をしてみるとか、な」
昼寝、そう、昼寝だ。仮眠じゃない。急な呼び出しで睡眠時間を削らされた代わりにちょっと横になるような時間とは違う。普通の睡眠時間とは別に心身を休められる至高の時間だ。
「教え子が幾人も巣立って、俺の仕事も減る筈と思っていたが、結局のところ大物の相手は教え子たちには荷が重かったりで俺が出張る羽目になることになるし」
教え子が受け持って持ち込まれる厄介事が減るかと思いきや、減ったのを手が空いたとか勝手に解釈して別の雑用を頼んでくる無能ども。
「待遇いかんでは投げ出して出奔してただろうな、うむ」
思い返すと、本当にブラックであった。いや、一応現在進行形でブラックだろう。教官と言う仕事とは別に隣国の竜に備えるだとか言われて国境まで行かされたりしたわけだし。
「普通の教官なら新学期の為の準備とかしなきゃいけない時期だよな?」
一応こっちの事情をある程度理解している校長が便宜を図ってくれたり、副教官が教官としての仕事の幾らかを引き受けたりはしてくれているものの、一つの身体に二つの仕事は要らないと思うのだ。
「と、ぶちぶち愚痴ってしまったが――」
ちらりと最強主人公ちゃんを見る。まだ目を覚ました様子はない。
「いや、こんなところを見られたら赤っ恥も良いところだからな。まだ目覚めまでかかると見てあんなことを言っていたわけだが」
とはいえ、このまま気を抜きっぱなしと言う訳にもいかない。
「ふむ、目が覚めた後のことを考えつつ起きるのを待つか。聞かせられないような話はもう終わりということにして」
まず考えるべきは、個人授業をこのまま続けるか否か。
「その辺りは当人の希望しだい、か」
当人が続けるというなら、実際の授業で最強主人公ちゃんがやらかした時の練習になるし、もう帰るというならそれでもいい。
「一応、誤解は解けたわけだしな」
俺が性教育の教官でないことは最強主人公ちゃんも理解してくれたはずだ。
「学校が始まるまで誤解に気づかなかったら、『俺が性教育の教官』だなどというデマが広まっていたかもしれん訳だからな」
デマが広まり、収拾が不可能になった後で知ったら目も当てられない。
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