第124話「その裏側」


「どうやら思い出したようじゃのぅ」


 今のところ奪衣婆に成りすまして誤魔化しつつ最強主人公ちゃんに反省を促すプランはうまく機能している。何とか、最強主人公ちゃんが意識を失う直前の状況を思い出すに至ったことで密かに胸をなでおろし、続いてここからどうするのかを考える。


「魔法についてのアドバイスはあり得ない」


 特別魔法教官の俺ならともかく、今の俺は設定上「最強主人公ちゃんが死にかけた経緯については知らない奪衣婆」なのだ。最強主人公ちゃんが事情を説明してくれるよう話を振るか、このまま黙って最強主人公ちゃんが自己解決するまで様子を見守ると言ったあたりが無難なところだと思う。


「確かボク、魔法で水を出そうとしたらものすごい量の水が出て――」

「なるほど、自らの水に溺れたという訳じゃな」

「ううん、あの量はお風呂の、浴室におさまるような量じゃ……ひょっとして、浴室が耐えきれなくて崩れて、ボクは下敷きに?」


 相槌を打てば頭を振った最強主人公ちゃんは推測を口にし。その可能性もあったかもしれないなと俺は密かに思う。もちろん、魔法による結界で俺が保護しなかったことが前提だが。


「……そんな筈、ない。特別魔法教官が一緒だったし、あ」


 そしてここでようやく最強主人公ちゃんは俺の事に思い至ったらしい。


「どうかしたかのう?」

「いえ、なんでもありません。そっか、ボクそれで死ななくて済んでるのかも」


 質問を投げてみるも再び首を横に振るだけで、最強主人公ちゃんは何やら納得した様子を見せて自己解決に至たようだ。まぁ、最悪の展開を俺が防いだという意味では事実だが、流れ的に俺もこっちに来てるのではと思って質問されるかもと考えてすらいたものの。


「こっちに来てませんか」


 と。俺の特徴を上げて最強主人公ちゃんが尋ねてくることもない。ころあいかと俺は思った。


「あ、れ?」


 訝しげな声を上げて最強主人公ちゃんがよろめく。俺が対象を眠らせる魔法を行使したのだ。


「どうやらここでお別れの様じゃの」


 言外に臨死体験は終わりだと匂わせつつ傾いでくる最強主人公ちゃんの身体を俺は支え。


「……大丈夫そうだな。さてと」


 完全に眠ったことを確認すると、支えた身体をゆっくり横たわらせ、浴場の幻を消す。同時に自身の変身も解いて、魔法で部屋と最強主人公ちゃんを乾かし始める。


「まったく濡れてないとかえって変だからな」


 あからさまなぐらいの魔法で乾かしてるところでしたよと言う演出で不自然さを消しつつ、濡れ透け状態を解除する。無駄に全力だが、社会的に死ぬわけにはいかないのだから仕方ない。


「それに考えようによっては収穫だったからな。もし今回の事がなくて最初の授業を行っていた場合――」


 最強主人公ちゃんは今回と同じことをやらかしただろう。


「他の生徒も見ている状況で今回と同じ対応は不可能だった筈だ」


 ビジュアル的なモノは別として、魔法による保護が及ばず、他の生徒も巻き込まれて大惨事になっていた可能性がある。


「本来の初回授業の失敗を阻止できたと思えば」


 これくらいの隠ぺい工作何てどうってことない。どうってことなかった。

 

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