第123話「追いつめられた時こそ人は本性が出るとか何とか」


「焦るな、落ち着け」


 窮地ではあった、だがここで思考を放棄してはだめだ。


「ここは創作物の世界、なら作者は必ずどこか抜け道を用意している筈」


 そうでなければ最強主人公ちゃんも浴場で教官と人様には口にできないようなことをしたということで退学処分なんかになってしまう可能性がある。


「退学と言う挫折を得て成長するとか、最初から仕込まれていない限りそれはない筈」


 と言うか学校が始まっていない段階でやらかして退学処分とか新しすぎるだろう。展開がどこかの既存作品に似てしまう気がする病にかかった作者が誰もやってない展開にこだわるあまり、うまく行かないから誰も見向きもしなかった展開に手を出してしまったとかで無ければ、このまま不祥事発生とはならない筈。


「しかし、創作物の世界と認識してることに救われるとはな」


 若干複雑だが、その認識ゆえに考えることをやめなくて済んだのは事実であり。


「ん? 創作物の世界……創作モノ、それだ!」


 俺はひらめいた。そうだ、創作モノだというなら、既存の創作モノでありがちなオチ、展開をそのままそっくりパク、参考にしてしまえばいいのだ。


「絶望的な状況、展開になった時にありがちと言うと……爆発オチ?」


 何もかもを消し飛ばして、なかったことに。


「って、なかったことにできるか! これは没!」


 では、他に何があるか。


「有名どころでは夢オ……そうか、夢オチか!」


 対象を眠らせる魔法、幻を見せる魔法、どちらも俺は使うことができる。


「状況を打破する前に最強主人公ちゃんが起きても、それを夢だと認識すれば色々オッケー!」


 破滅は訪れない。


「となると、夢らしく今の内に姿を変えておくか。そうだな、同性だと今の状態が気になるだろうから、女性の方が良いか」


 身体が濡れていることを不思議に思わせないためにも周囲の光景は水辺とか、身体が濡れてもおかしくない場所へ。


「いいぞ、徐々に形になってきた。後は魔法も危ないところだったからな。危機感を覚えてほしいからそこも組み込むとすると……ふむ」


 条件に見合う設定は割とあっさりと思いついた。故に俺は即座に魔法で姿と声を変えた。


「難があるとするなら、これが前世の知識を基にしたモノであるということだが」


 まぁ、夢なのだ。深く考えなくてもいいだろう。実際の夢だって起きて思い出すと、何故おかしいと思わなかったんだとツッコミを入れたくなる程へんてこなものだったりすることもあるし。


「それよりも、『準備したけれど、服が乾くまで最強主人公ちゃんが起きなくて無駄になりました』とかならないかの方が気がかりだしな」


 呟き落とした視線の先にあるのは、女性の手。口調はそのままでも声も違うので微妙な違和感がある。


「それはそれとして、口調もそろそろこの声と姿に合わせねばならんな」


 今回無駄になっても、ましゅ・がいあーのようにどこかで使い道が出てくるかもしれないのだ。俺は意を決すと、そのまま役作りに入るのだった。






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